シャルロットが幻十郎との生活を始めて、半年が過ぎた。今では、幻十郎の身の回りの世話をする毎日に、彼女はある種の充実感さえ抱くようになっていた。 朝は早く起きて、幻十郎が目覚める前に朝食の用意を、昼間は幻十郎のいない庵の中で、掃除、洗濯に勤しんだ。夕方のうちに夕食を作り、戻ってきた幻十郎と夜を過ごす。今のシャルロットの生活は、幻十郎を中心に動いていた。それは奴隷というより、甲斐甲斐しく働く貞淑な妻の生活だった。 (こんな生き方もあるのだな……) シャルロットはしみじみ思う。無意味な剣士としての誇りを捨てたことで、気が楽になったようだった。 (散々な経緯ではあったが、これも幸せというものなのか……?) 幻十郎に対する感情が、愛情であるのかは、シャルロット自身にもわからない。幻十郎は自分を恥辱にまみれさせ、奴隷に貶めた男である。しかし、いつの間にか憎しみは消えていた。少なくとも、抱かれている時には彼を愛しいと思った。普段めったに話をしない彼が、些細なことでも自分に意識を向けることがあると、不思議なほど満足する自分がいた。幻十郎が遊郭に行ったことを知って、胸の内にざわざわと嫌な感覚が広がったこともある。 (ふ……これではまるで、多感な少女ではないか……) 自分の感情に戸惑いながらも、シャルロットは自嘲的に笑う。 (だが、それも悪くないか……) シャルロットは幻十郎が調達してきた野菜を刻みながら、今度は穏やかに微笑んだ。 その時、庵の外で草履の足音が聞こえた。 「戻ったか? 今日は早いな…」 出迎えようと、シャルロットは濡れた手を拭いながら、戸口に向かう。しかし、戸を開ける寸前に、違和感を感じて歩みを止めた。 (……なんだ? 気配がひとりじゃない……) じり、と後退した直後、荒々しく戸が開いた。そこにいたのは、幻十郎ではなかった。薄汚い着物を着た野盗風の男が四人、抜き身の刀を持って立っていた。シャルロットは反射的に炊事場まで飛び退き、先ほどまで野菜を切っていた包丁に手を伸ばした。 「へっへっへ……な、俺の言った通りだろ?」 男のひとりが、野卑な笑いを浮かべた。男達は、シャルロットが退いたのを見て、ずかずかと庵に踏み込んでくる。 「何者だ、貴様ら!」 鋭い声で恫喝するシャルロット。しかし、「ラロッシュ」に比べて包丁は武器としてはあまりに頼りなく、彼女の技術に向かない。そして、身を守る鎧も無い。 「へへへ…こいつが、えれえべっぴんの異人女をこの辺りで見掛けたってんでな、ちょいと異国の味ってのを味わってみようと思ってよ……」 言いながら、四人の男達はじりじりと歩み寄ってくる。 「寄るな! この下衆どもめ!」 精一杯の虚勢を張るシャルロット。レイピアさえあれば、彼らはシャルロットに指一本触れることはできないだろうが、この状況ではいかに彼女といえど圧倒的に不利だった。しかも、この半年というもの、剣の鍛練などまったくしていない。 「下手な抵抗はしない方が身の為だぜ」 四人の男達は、あっという間にシャルロットを取り囲んだ。 幻十郎は、自分の気が狂ったのかと思いながら、自分の手に持った荷物を見た。それは、ほんの気まぐれだったのかもしれない。 手に持っているのは、女物の着物と櫛だった。 シャルロットの着物は既に、ずいぶんくたびれていた。着物を一枚しか持っていないので、薄い布一枚をまとって洗濯しているシャルロットの姿を見たことがある。その時に哀れを感じたのか、見苦しいと思ったのか、幻十郎はよく覚えていない。さらに、着物だけではなく、手入れもままならぬ生活の中、シャルロットの美しい金髪は微妙に荒れ始めていた。彼女の柔らかい金髪の感覚が、幻十郎は嫌いではなかった。気が付いたら、彼女のための着物と櫛を買い求めていた。 (まったく、この俺が女のために買い物とは……) 幻十郎は心の内で呟きながら、庵への帰路を足早に歩いていた。シャルロットの身に何が起きているのかも知らぬまま。 「さあ、観念しな、異人よぉ!」 奮戦虚しく、シャルロットは四人の男達に押さえつけられた。包丁はとうに取り落とし、衣服の乱れも激しい。 「離せ、下衆どもが!」 叫んだ瞬間、したたかに頬を殴られた。口の中に、じわりと血の味が広がる。 「おい、森の中に連れこんじまえ」 シャルロットの両腕は捻り上げられ、森の中へ引きずり込まれた。抵抗しようとすると、容赦なく殴られた。森の中に入ると、二人がかりで地面に引き倒された。 「うおっ、見ろよこの乳! まるで西瓜じゃねえか」 シャルロットの着物をはだけさせた男が、見事なまでに盛り上がった白い乳房を差して叫ぶ。 「や、やめろっ!」 「たまんねえな、この体! 異人はみんなこうなのかよ!」 歓喜に震えた男が、その胸にむしゃぶりついた。先端を舌で押しつぶし、唇でひねり回し、歯を立て、千切れそうなほど強く吸う。 「うぐっ……くあぁっ!」 「おうおう、喜んでやがるぜ! じゃあ、俺はこっちだ!」 別の男が下卑た口調で言いながら、着物の裾を大きく捲り上げた。シャルロットの足を自分の膝で開いたまま固定し、無遠慮に指を侵入させる。 「やめろ、やめろぉっ!」 叫ぶ度に頬を殴られたが、シャルロットは必死で叫ぶ。 「おい、黙らせろよ、うるせえぞ!」 「よしきた!」 叫んでいた彼女の口内に、男の薄汚い怒張がねじ込まれた。 「うぐぅ!!」 唯一の抵抗、叫び声を上げることさえ封じられた。悪臭を放つ野盗の逸物が激しく唇をこすり、シャルロットは悔し涙を流す。 「涙が出るほどいいってよ! おい、さっさと入れちまえよ」 口を犯していた男が叫んだ。 「ようし、待ってな、今入れてやるからよ!」 「んぐうーーーーーっ!!!」 勢いよく、秘所に怒張が突き立てられた。シャルロットは上下に口を同時に犯されて、くぐもった悲鳴を上げる。さらに、仰向けになった彼女の体に、もう一人の男がまたがった。 「じゃあ、俺はこの乳をもらうぜ!」 男は豊かな双丘の肉をかき集めるようにすくい、その間に自らの逸物を挟みこんだ。左右の柔肉で圧迫しながら、腰を前後に動かす。 「おおっ、柔らかくて気持ちいいぜぇ!」 抵抗できないシャルロットを、男達は3人で同時に犯す。がくんがくんと、男達の動きに合わせて白い裸身が揺れた。 数回動いただけで、胸を犯していた男は酔いしれたような表情で身を震わせた。その直後、寄せられた胸の谷間から、白濁液が溢れ出した。男の汚れた体液が、シャルロットの胸元から顎にまで飛び散る。 「うぐぅ……むぅ……」 滝のように涙を流すシャルロット。 「おお……俺ももう駄目だ!」 シャルロットの頭を掴み、口を犯していた男がうめく。喉の奥まで突き込まれていたシャルロットは、苦しげに身を捩るが、しっかりと頭を押え込まれていた。喉の奥に放出された苦しさは、幻十郎に口で奉仕した時の比ではなかった。咳き込みながら吐き出そうとしたが、口をしっかりと押さえられた。 (……げ……幻十郎……) いるはずのない男に向かって、シャルロットは必死に手を伸ばした。が、その手は男の一人に掴まれて、そそりたつ怒張を握らされた。 「うおお、すげえ、もう出しちまうぜ!」 秘所を犯していた男も、早くも限界を迎えた。 「おい、次は俺が入れるんだからな!気持ち悪いから中には出すなよ!」 「わかってるって!」 男は引き抜いた逸物をしごき、シャルロットの胸と腹に放出した。無理矢理握らされていた逸物からも、精液が飛んだ。それは、シャルロットの顔に吐き出された。 無残にも白濁液を全身に浴びせかけられ、放心したように空を見上げるシャルロット。 「へへへ…最高だな、異人女ってのは! このまま連れ去っちまって、俺らで飼うか」 男の一人が、仲間に向かって言った。 「さて、次はどこを犯してやるかな…尻の穴がいいか?」 男は、自分の後ろにいる仲間を振りかえった。 「なんだよ、黙りこんじまって……」 その仲間には、首がなかった。仲間の首は、男の足元に転がっていた。 「うわああああああっ!」 仲間の首から吹き出す血煙の向こうに、“鬼”がいるのを男は見た。 残る三人の男達は、仲間の首を刎ね飛ばした“鬼”を見て、半狂乱になって叫ぶ。 「ひいいいいいいいいい!! なんだこいつは!?」 「た……たすけ……ぐひいぃっ!」 続けて叫んだ男の一人が、一瞬にして喉を突かれた。豚のような悲鳴を上げ、鮮血を噴き出しながら、ゆっくりと崩れ落ちる。 「……幻十郎……?」 放心していたシャルロットが、その様子を見ながらうわごとのように呟く。 「な、なな……なんだよ……俺らが何を……」 シャルロットの秘所を犯した男が、へなへなとその場にへたり込んだ。むき出しの逸物から、小便が垂れていた。その間に、残ったもうひとりの胴体が真っ二つになった。 「貴様らごときクズどもに、俺の奴隷をくれてやるわけにはいかんな」 静かな声で言った幻十郎は、無造作に刀を突き出した。切っ先が男の右の眼球を抉った。 「ひぎゃああああああああああ!!」 続いて白刃が閃いた。男の左耳がポトリと落ちる。 「あがあああ! や、やめてくれ!! 許してくれ!!」 「黙れ」 幻十郎はそのまま、男の左足首と右腕を斬り落とした。そして、力なくうなだれた逸物をも斬り落とす。 「あぎゃあああああああああああああああああああ!!」 最後に、幻十郎は男の胸を刀で貫いた。ごぼり、と男が血の塊を吐き出した。幻十郎は肺をついたのだ。男は苦しみ抜いて死んでいった。 シャルロットは黙ってその光景を見つめていた。幻十郎は、彼女の方に視線を向けず、手を差し出した。 「来い」 びく、とシャルロットが震えた。手を伸ばしかけて、その手に白濁液がこびりついているのに気付き、躊躇する。 「あ……」 「聞こえんのか!」 幻十郎は苛立たしげにシャルロットの手首を掴み、強引に立ち上がらせる。そのまま自分の方に引き寄せると、彼女の長身をあっさりと横抱きに抱き上げた。 「あっ……汚れる……」 「ふん。どうせ洗うのはお前だ」 素っ気無く言い、すたすたと歩き出した。 幻十郎が向かったのは、庵の裏の小川だった。汚れた体を洗えという意味なのだろう。シャルロットはそう解釈して、降ろされるのを待った。 しかし、幻十郎は彼女を降ろさず、そのままざぶざぶと川に入っていく。 「幻十郎……何を……!?」 幻十郎は応えず、川の中央で座り込んだ。開いた自分の足の間にシャルロットを降ろす。 「……冷たい……」 呆けたようにシャルロットが呟く。せせらぎが、体に付いていた汚液を少しずつ洗い流した。 「……幻十郎……私は……」 何を言えばいいのか、シャルロットにはわからなかった。野盗に対する怒りの気持ち、何故か、幻十郎に対する申し訳ないような気持ちが、胸中に入り乱れていた。 ぱしゃ―― 突然、幻十郎の手が水をすくい、シャルロットの首筋にかけた。そして、汚れを拭い取るようにその手が動く。 「あ……」 ぱしゃ。今度は顔だった。思わず目をつぶってしまうシャルロット。暗い視界の中、幻十郎の手が、顔の汚れを洗い落としていく。殴られた顔に冷水が沁みたが、むしろ心地良かった。 「ん……」 シャルロットは思わず、その手に軽く口付けていた。幻十郎の指が、柔らかく彼女の口を開く。その中にも、男達の汚液はこびりついていた。少しずつ流し込まれる川の水で、喉の奥まで洗い流した。幻十郎の指は、あくまで静かに口内をこする。 次は胸。ゆっくりと水をかけ、丁寧に汚れを洗い落とす。野盗に舐められた先端は、指で挟みこむようにして洗った。 「ん……ぁ……」 いつのまにかシャルロットの表情が、切なげなものに変わってきた。 「もっと……こすってくれないか……お願い……」 「……」 幻十郎は黙って、シャルロットの体中の汚れを、手でこすり落としていく。胸を、腹を通過した指が、するりと脚の間に滑りこんでいった。 「あん……」 つるり、と指が秘所を撫でた。それだけで、シャルロットは鼻にかかったような小さな声を出してしまう。 「んっ……んんっ……あっ……はあっ……」 膝の上に抱えられたまま、ぴくんぴくんと体を震わせながら、シャルロットは幻十郎の首にすがり付いていく。幻十郎の指は秘所を嬲るようにも、慈しむようにも、内部の汚れをかき出そうとしているようにも感じられた。 「はぁんんんんんっ……」 ただ指でいじられているだけで、シャルロットは絶頂を迎えた。はあはあと荒い息をつきながら、幻十郎の首に回した腕に力を込めた。 「すまない、着物が……」 庵に戻った後、野盗に切り刻まれた着物を手に、シャルロットは項垂れて言った。その彼女の足元に、幻十郎が風呂敷き包みを放り投げる。 「獣と暮らす趣味はないと言ったはずだ。それを着ろ」 風呂敷きには、薄い青に白百合の模様を染め抜いた着物と、青い花を彫りこんだ木製の櫛が入っていた。 「これは……私に……?」 「着物を捨てられたくなければ黙って着ろ」 素っ気無く言う幻十郎の言葉に、シャルロットはいそいそと袖を通す。その着物はまるであつらえたように、シャルロットの体型にぴったりだった。そして彼女は嬉しそうに、満面に笑みを浮かべた。 いつしか、幻十郎はシャルロットを奴隷のように扱うことをやめていた。しかし、何かを贈ったり優しい言葉をかけることも皆無だったのだ。その幻十郎が自分に物を買って来た、ただそれだけで、シャルロットの胸中に暖かいものが広がった。 「ありがとう、幻十郎…………」 「ふん……みすぼらしい格好でうろうろされては、俺の気が滅入るわ」 幻十郎はそっぽを向いて、杯を傾けながら言った。冷たい言葉を、しかしシャルロットの嬉しそうな表情は変わらない。 「どうだ……似合うか?」 問われた幻十郎は、ちらりとシャルロットに一瞥をくれ、すぐにまたそっぽをむいた。だが、シャルロットは、一瞬とはいえ幻十郎の注意が自分に向いたことで、充分満足していた。 「着たのなら、さっさとここへ来て酒を注げ」 フランスで生まれ育ったシャルロットにとって、あからさまに奴隷然とした「酌」という行為はあまり好きではなかったが、今日ばかりは嬉々として幻十郎の杯に酒を注いだ。 |