獅子転生



――結局、私は剣士にも、女にもなりきれなかったということか…。
 傷ついた覇王丸を助けに向かおうとしたシャルロットは、それが自分の役目ではないことに気付かされてしまった。木陰で、覇王丸と日本の女性の抱擁を見せ付けられた形のシャルロットは、自らの惨めさに自嘲の笑みを浮かべた。
 いつから彼に惹かれていたのかはわからない。貴族の娘として育てられ、女だてらにと言われながら剣の腕を磨いた。そんな彼女は、あまりに違う境遇、思想の持ち主である覇王丸に、恋慕と言う感情を抱いてしまった。
 剣を捨て、好いた男に嫁ぐという、女の幸せを追求するのも悪くない。そう思っていた矢先のことだった。
――どだい、私などに選べる道ではなかったのかもしれん…。
 じわり、とシャルロットの両目に熱いものが滲んだ。
「私もまだまだ…修行が足りないな…」
 涙がこぼれぬよう、空を仰ぎ見るシャルロット。
「クックック、まったくだな…」
 シャルロットはハッとなって、声のした方を向いた。いくら別のことに気を取られていたとはいえ、剣の達人たる彼女をして、まったく気配を感じさせない男。
「貴様…牙神!?」
 シャルロットの視線の先には、木陰に腰を下ろして、美味そうに煙管を吹かす幻十郎の姿があった。覇王丸の命を狙ってきたのだろうか?
「勇猛果敢で聞こえた剣士が、男に袖にされて涙とはな」
「なっ…何を!?」
「まったく、軟弱という他はない」
「貴様…愚弄するか!!」
 怒りと羞恥で真っ赤になり、シャルロットは愛用のレイピアを抜き放つ。
「斬れるか、その剣で? 自慢の剣、光がくすんでおるわ」
 口の端に笑みを浮かべたまま、幻十郎がのそりと立ち上がる。抜き身の愛刀をだらりと下げた手に握り、いかにも無防備ではある。しかし、かといって迂闊に仕掛けることは、敗北を意味する。それだけの技量を、幻十郎は備えているのだ。
「覚悟!」
 おもむろに斬りかかるシャルロット。冷静な時なら、少し様子を伺ったに違いない。だが、今は覇王丸の件で心が動揺しているし、幻十郎に対する怒りに燃えている。冷静な判断など、下せる状態ではなかった。
「愚かだな」
 冷たく言い放つ幻十郎の声が、シャルロットに聞こえたかどうか。必要以上の力が込められた一撃を、低い体勢でやすやすと掻い潜り、幻十郎は一瞬にしてシャルロットの懐に潜り込んでいた。そのまま脇を摺り抜けながら、刀の柄を彼女の鎧のない腹部に叩き込む。
「うぐっ…!」
 一瞬、シャルロットが息を詰まらせた。
「ひとつ!」
 さらにすれ違いざま、幻十郎の刀が、鎧の上からシャルロットの胴を薙いだ。
「ふたつ!」
 今度は背中から斬撃が襲う。
「みっつ!」
 シャルロットの正面に回りこんだ幻十郎は、大上段から大きく刀を振り下ろす。目にも止まらぬ三連撃に、シャルロットは一瞬、死を覚悟した。
 ぎぃん、と耳障りな音が響いた。金属同士が激しくぶつかった音である。
「あうっ!」
 襲い来る津波のような打ち下ろしに、シャルロットは思わず膝をついていた。シャルロットの身を守るはずの鎧がバラバラに壊れて、地面でがらん、と音を立てる。
「気のこもらぬ剣技は児戯にも劣る」
 幻十郎の言葉が、シャルロットの耳に死刑宣告のように響いていた。その手から、「ラロッシュ」の名を持つレイピアが力なく零れ落ちた。完敗である。
「……殺すがいい……」
 ぼそりと、呟くように言うシャルロット。強がりでも、プライドゆえの発言でもなかった。生きていても仕方がないと思った。心の拠り所がすべて粉微塵に打ち砕かれたようだった。しかし、幻十郎はシャルロットを斬ろうとはせず、黙ってシャルロットに歩み寄る。
「死にたがっている奴を斬っても仕方ない」
 幻十郎は軽く刀を一閃させた。青い胴着が切れて、はらりと垂れ下がる。
「な…何をする!」
 狼狽するシャルロット。その顎を、幻十郎の力強い手ががっちりと掴む。
「思い上がるな、貴様はただの女に過ぎん」
 息がかかるほど顔を寄せて、幻十郎が冷ややかに告げる。シャルロットの背筋を、ぞくりと冷たいものが走り抜けた。その刹那、唇を奪われた。
「…んっ!?」
 慌てて引き剥がそうとするシャルロットだが、彼女の力では、幻十郎の逞しい体は小揺るぎもしない。やがてシャルロットの手は幻十郎に掴まれ、左右まとめて頭上で固定された。
「うぐぅ!」
 強引に歯を割って、シャルロットの口内に幻十郎の舌が侵入してきた。その舌を噛み切ってやろうとしたシャルロットだったが、顎関節を強く掴まれて阻まれた。
 存分にシャルロットの口内を犯した幻十郎は唇を離し、シャルロットの両手を膝で抑えると、アンダーウェアを乱暴に引き裂き始めた。
「何をする!? やめろ! やめなさい!!」
「女の幸せを教えてやろう。好きなだけ暴れるがいい」
 シャルロットは瞬く間に、下着とブーツを残して衣服をすべて剥ぎ取られてしまった。さらに、幻十郎は懐から手ぬぐいを取り出し、シャルロットの口に詰め込んだ。
「舌を噛まれてはつまらんからな…行くぞ」
「うぐううううううううううううっ!!」
 前戯もなしにいきなり挿入され、シャルロットは身も世もない悲鳴を上げた。


「うう……」
 草むらの上に、シャルロットは力なく、白い裸体を横たえていた。手ぬぐいは外されていて、声は自由になるが、体が思うように動かない。その脇には、軽く着物を羽織っただけの幻十郎が、煙管を片手にシャルロットを眺めている。
「まさか初物とはな…しかし、これで貴様も、やっと女になれたわけだ」
 幻十郎は、シャルロットの股間から太股にかけて滴る鮮血を見ながら、楽しそうに言った。
「き……貴様……絶対に許さん……っ!」
 全身を痺れに似た感覚に支配されながらも、気丈に幻十郎を睨み付けるシャルロット。しかし、幻十郎はまったく動揺しない。
「ほう、まだそんな元気があったか」
 楽しげに言うと、煙管を咥えたまま立ち上がり、倒れたシャルロットに歩み寄る。
「限界と思ったが、さすがに鍛えているだけはある。では、続きを楽しませてもらうとしようか」
 凄惨な破瓜のショックから立ち直れず、小刻みに震えるシャルロットに、幻十郎はどっかりとまたがった。用心のためか右手で肩を押さえつけ、余った手で豊かな乳房を強く掴む。
「ひっ…!」
 気丈だったシャルロットの顔が、恐怖に彩られる。快感などは一片もない、苦痛だけの性行為。悪夢のような時間が、再び訪れようとしている。それだけで、シャルロットの歯はカチカチと音を立てた。
「いや……やめて……」
 自分の態度が呼んだ事態に、シャルロットは弱々しく首を振った。むろん、それで幻十郎が考えを改めるはずもない。むしろ、嗜虐心を刺激されただけだった。
「ほう、ずいぶん女らしくなったものだ」
 そう言いながら、幻十郎はシャルロットの柔肉をこね回す。いいように形を変えながらも、シャルロットにはまったく快感をもたらさない。
 幻十郎が、胸の先端に歯を立てた。鋭い痛みがシャルロットの脳を直撃する。
「あうぅぅぅっ!」
 シャルロットの切れ長の目に、涙が溢れ出す。それを、幻十郎の舌がべろりと舐め取った。
「クックック…小娘のようだぞ? 先ほどまでの威勢が嘘みたいだな…ほら!」
 幻十郎は、力の入らないシャルロットの体を、うつ伏せに引っくり返す。
「なに……これ以上、何をする気だ……?」
 もはや抵抗する体力はない。シャルロットはされるがままになっている。
「黙っていろ。情事の時にうるさい女は嫌いだ」
 幻十郎はうつ伏せに横たわるシャルロットの腰を掴み、持ち上げた。血と土で汚れた尻を、幻十郎に突き出すような姿勢を取らされて、シャルロットの顔が屈辱に歪む。
「は…離せっ!」
 弱々しくも抵抗を試みるシャルロットだったが、幻十郎はその髪の毛を掴んで顔を引き寄せ、低い声で告げる。
「黙れと言ったはずだ」
 幻十郎の威嚇するような声に、先ほどの悪夢が蘇ってきた。怒らせると、何をされるかわからない。死ぬよりも辛い苦痛が待っているかもしれない。シャルロットは震える歯の根を強引に押え込もうとしたが、うまくいかなかった。
「わかったら、黙って尻を上げろ」
 誇り高き貴族の生まれであるシャルロットにとって、それは耐え難い屈辱だった。遠い島国の男に、獣のような姿勢で尻を差し出すなど、到底受け入れられる要求ではない。だが、彼女には従うことしかできなかった。彼女には、もはや抵抗するだけの力が残されていない。そして、これ以上の苦痛に耐える精神力も残ってはいなかった。
 シャルロットは、膝を付いて四つんばいになり、羞恥と屈辱に身を震わせながら、ゆっくりと幻十郎に向かって尻を差し出した。
「ずいぶんと素直になったものだな」
 幻十郎は満足そうに呟くと、カーブを描く尻に手を触れた。その手が徐々に下方へ滑っていく。指先が、まだじんじんと痛みの残る秘所に振れた瞬間、シャルロットの体がビクンと大きく震えた。周辺には、乾いた血が痛々しくこびり付いている。
「もう…もう、やめて……」
 擦れるような声で哀願する。それは「獅子」と呼ばれた女性剣士の姿ではなく、男の暴力になす術もなく涙を流す、哀れな女の姿だった。
「あう!」
 シャルロットの体が再び跳ねた。押し広げられた秘所に、幻十郎の指が無遠慮に侵入していた。
「うっ……ぐ……くうぅ……っ!」
 辛うじて腕で支えていた上半身は地に落ち、両手が虚しく雑草を掴む。秘所に差し込まれた幻十郎の指が、彼女の体内で別個の生き物のように蠢く。先ほどより苦痛は少ないが、未知の感覚が下腹を駆け巡り、シャルロットは恐怖を抱いた。
(なに、この感覚は……!?)
 それを快感と呼ぶには、シャルロットの体があまりに未開発だった。
「うあぁっ……ひ……ひっ!」
 下半身が熱を帯び始めているのを、シャルロットは自覚していた。幻十郎がまさぐる自分自身の秘所が、次第に粘着的な音を立て始めていることも。その自覚は、シャルロットを絶望に追いこんで行った。
「立ってその木に手をつけ」
 自らの感覚に呆然としていたシャルロットの髪を掴み、幻十郎は目の前の木を指し示した。シャルロットは要求の意味がわからず、躊躇する素振りを見せる。
「立て! 手を付けと言っている」
 髪の毛を引かれる痛みに、シャルロットはようやく、のろのろと立ち上がる。そして言われるがままに木に手を付くと、不安そうに幻十郎を振りかえる。
(何をさせようというんだ…私を犯そうというのではないのか…?)
 不審に思いながらも、シャルロットは全身に力を入れようと踏ん張った。しかし体の自由が利かないのか、膝はがくがくと震えていて、崩れてしまいそうになる。
 やがて幻十郎の手が、シャルロットの細い腰をがっちりと掴んだ。もう、逃れられない。
「ああ……」
 諦めの言葉にも似た吐息が、シャルロットの口から漏れた。と、同時に、勢いよく幻十郎が腰を突き入れた。
「あぐううっ!!」
 最初に比べれば、衝撃は小さかった。だが、破瓜の傷も癒えぬままだったため、シャルロットはくぐもった悲鳴をあげる。
「犬のような姿勢が嫌なら、しっかり立っていることだ」
 幻十郎の言葉に、シャルロットはハッとなって膝を伸ばす。が、幻十郎が深く突き入れる度に、彼女の膝はがくりと揺れた。
「ぐっ!…うぅっ!……うあっ!……」
 断続的に訪れる突き上げに、シャルロットは声を漏らす。やはり、快感は訪れない。最初の時ほどではないが、小さな苦痛の波が押し寄せる。眉間に皺を寄せながら、シャルロットは必死に耐えた。
「も…もう…許して……」
 息も絶え絶えに訴える。が、その声を聞いた幻十郎はニヤリと笑い、これまでより激しく腰を突き入れた。
「ぐあああああっ!」
 シャルロットの両目は大きく見開かれ、空気を求めるようにぱくぱくと口を開ける。目尻から大粒の涙が無数に零れ落ちた。
「かは……」
 もはや、シャルロットの口から漏れるのは言葉とはいえなかった。悲鳴、鳴咽、が入り交じった悲痛な声が、突き入れられる度にこぼれた。
「あぐ……くふぅ……ひぐっ……」
 手で体を支えることもかなわず、シャルロットはいつしか、木の幹にしがみつく格好になっていた。振動を受けた白い乳房が、リズミカルに木の幹を叩いていた。
「さあ、いくぞ」
 幻十郎の動きが速くなった。シャルロットはきつく目を閉じ、小刻みな呼吸しかできない。
「出すぞ」
「や……やめて!」
「黙れ」
 慌てて振向こうとしたシャルロットだが、すぐに顔を抑えられた。木の幹に押し付けられると、もうどうしようもなかった。
 そして間もなく、シャルロットの体内に熱いものが広がっていった。





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