巴里華撃団隊長・大神一郎の住むアパートの屋上に、不敵にゆらめく影があった。 月明かりに照らし出された顔つきは、狡猾で美しい銀狐を思わせる。 眼光の鋭さを隠すようなロイド眼鏡をかけ、ウェーブのかかったプラチナブロンドをヘアバンドでまとめている。 大柄な身体をロングコートに包み、ゆるやかな風に身を晒す姿には風格が漂い、彼女がただものではないことを如実に物語っていた。 『巴里の悪魔』とまで称された世紀の大悪党―――名を、ロベリア・カルリーニという。 現在は巴里華撃団に身を置いている。無論、正義に目覚めたわけではなく、懲役軽減を条件とした取引の結果。つまりはビジネス。 本音を言えば、いくら報酬のためとはいえ正義のために戦うなど、彼女の本意ではない。 今まで巴里市民を恐怖に陥れてきた自分が正義の味方だなどと、笑い話ではないか。 だからといって、巴里が火の海になるのも気分が悪い。 なので、華撃団サイドから報酬としての「懲役軽減」というわかりやすい条件が提示された時は、かえって好都合だったのだ。 もっとも、ただ使われるだけというのは癪なので、怪人を倒す度に特別ボーナスをもらえるようには計らっておいたが。 そのあたりは、犯罪者としての職業意識だと、本人は認識していた。 ロベリアが、ゆっくりと首を巡らせて巴里市内を見回す。 大きな戦いを終え、どうやら巴里にも平和が訪れたらしい。これで終わり、というわけではないかもしれないが、さし当たって市民を脅かしていた怪人は退けた。 「お役御免、ってとこかねェ…」 ロベリアは、言葉を風に乗せて飛ばすかのように、そっと呟いた。 対怪人用にスカウトされたものの、本来は大罪人。平和の戻った巴里において、もう自分の居場所は「監獄の中」しかないのだろうか。 元の生活に戻るだけ。そう言ってしまえば簡単だ。しかし… 「今さら元通りにゃ、なれないよなぁ……そうだろ、隊長?」 ひんやりとした風に肌寒さを感じ、大神は目を覚ました。窓を閉めた記憶はある。 (侵入者か!?) 素早く跳ね起き、刀を掴む。涼やかな音と共に抜き放ち、窓の方へ突きつける。 「何者だっ!?」 「おやおや、部屋を訪ねてきた女に、なんてもの向けるんだい?」 窓枠に腰掛け、嫣然と微笑むは―――「巴里の悪魔」。 「ロ、ロベリア!? どうしたんだ、こんな時間に?」 「相変わらず野暮だねェ、隊長さんは……」 ロベリアはニヤニヤと笑いながら、ベッドに近づいた。慌てる大神を座らせ、自分もその隣に腰掛ける。 「夜中に女が男の部屋を訪ねる理由なんて、そんなにいくつもないだろ?」 ちらり、と上目づかいに大神を見上げる。 「え!? な、な……何を……!?」 慌てる大神の手に、そっと自分の手を伸ばし、ゆっくりと刀を奪い取る。それを床に落とし、ガチガチにかたまった大神に、擦り寄るようにして身を寄せる。 「ロ、ロベリア、ちょっと落ち着いてくれ……!!」 「落ち着くのはアンタの方じゃないのか?」 挑発するような視線。 眼鏡を指で軽く押し上げながら、薄く開いた唇から舌の先端をちらりと覗かせる。舌はゆっくりと、そして控えめに、ロベリア自身の唇を撫でた。 ごくり、と大神の喉が鳴った。 「ロベリア……」 「『もっと自分を大事に』なんて言うんじゃないよ?」 大神の機先を制する。言葉を詰まらせる大神を見ながら、ロベリアはクスクスと笑う。 「アタシは自分を大事にしてるさ。やりたいことしかやらないよ」 硬直したままの大神の身体に腕を回し、首筋に唇を寄せる。大神の体が、ぴく、と小さく強張った。 「ロベリア……待ってくれ……」 「今さらジタバタすんじゃないよ」 ロベリアが、がっちりと大神の腕を抑える。振り払おうと思えば、それは難なくできただろう。霊力はともかく、単純な筋力なら大神の方が遥かに強い。 が……なぜか身体に力が入らない。 ゆっくりと、ベッドの上に押し倒されていく。 「ふふ……子供みたいだよ、アンタ」 コートを脱ぎ捨てたロベリアは、自分も大神の上に覆い被さり、ゆっくりと顔を近づけていく。 口と口が触れ合いそうなほど近づいたところで、ロベリアの顔がピタリと止まる。 静かな囁き声。 「アタシが欲しいだろ?」 どくん。どくん。どくん。どくん。すぅ…はぁ………すぅ………はぁ……… 大神の心音。お互いの吐息。 「………………ああ……」 大神は、はっきりと言った。 「欲しい………ロベリアが」 「アタシも欲しいんだよ……アンタが」 ロベリアも、はっきりと答えた。 「おっと、待ちなよ! アンタはじっとしてな」 ロベリアを抱きしめようとした大神の手を払い、押さえつける。 「このロベリア・カルリーニを好きにしようなんざ、100年早いね」 「お、おい、ロベリア……ちょっと待ってくれ!」 ロベリアは慌てる大神の腕をまとめ、手錠でベッドに固定した。 「ふふ……どうだい、不安だろう? 手錠で拘束されるのはさ」 戸惑いながら、大神が黙って肯く。 「でも……興奮するんだろ?」 ロベリアは大神の足にまたがって動きを封じ、悠々とベルトを外しにかかる。ジッパーの音が、やけにはっきりと暗い室内に響いた。 「いいから、おとなしくしてな……夢を見させてやるからさ……」 「うっ……!」 大神の羞恥心を煽るように、ゆっくりとズボンと下着を下げ降ろすロベリア。空気に酔いしれていた大神の分身は、天を突くが如くそそり立っていた。 「ふふ……いいねェ……」 満足そうな笑み。大神の怒張に手を触れるか触れないか、ギリギリのところで手を止め、じらすようにロベリア自身も服を脱ぎ始める。 するり、と脱げ落ちた服が、ベッドの下に落ちた。 窓から差込む月明かりに浮かび上がる、しなやかなロベリアの裸身。その凄絶な美しさに、大神が言葉を失う。 大きすぎず、小さすぎず、寝そべった大神を見下ろすように自己主張する、二つの胸の膨らみ。その頂に座した突起は、これからの行為の寄せる期待を表すようにピンと立っている。腹部へ至るなだらかな丘には、引き締まった腹筋がくっきりと陰影をつけている。腹筋の線を辿ると、ほっそりと慎ましやかな臍に到達する。 ロベリアがするするとスパッツを脱いでいくにしたがって、カーブを描く白いヒップラインがあらわになっていく。 「………綺麗だな………」 ぽつり、と拘束された大神が思わず呟くと、ロベリアが、ふふん、と鼻を鳴らす。心もとない月明かりの下でも、彼女がはにかんでいることが確認できた。 するすると、ロベリアの顔が大神の胸板に向かって降りてくる。 かち、という音。大神のシャツのボタンを、ロベリアの歯が挟みこむ。 ぶち。糸を噛み切り、シャツがくつろがされていく。 ぶち。ぶち。ぶち。 ロベリアは自分の口の中に残ったボタンを、ひとつずつ自分の掌に落としていく。 最後のひとつも……ぶちん。 すべてのボタンを噛み千切り終えると、シャツの前を開き、大神の引き締まった胸筋に軽く口付ける。 「う……」 かちゃり、と大神の手を拘束する手錠の鎖が音を立てる。 楽しそうに微笑んだロベリアが、鎖骨、腹筋、乳首と、次々に口付けていく。その度に、大神の口から吐息とかすかなうめき声が漏れた。 「可愛いねェ、隊長……戦闘の時とは、えらい違いだよ……」 唇で大神への愛撫を続けながら、ロベリアは両手でも大神を責める。触れるか触れないか、ギリギリの強さで首筋や脇腹を、さわさわと撫でる。 「う……くっ!」 柔らかな感触。今までに味わったことのない、甘美なじれったさ。ロベリアの愛撫は、大神の中に潜む“何か”に火を点けていく。 大神の怒張がビクビクと奮え、圧し掛かった体勢のロベリアの、ちょうど臍の辺りを突付く。 「んふふ……」 自分の腹に熱の塊を感じ、ロベリアは恍惚の笑みを浮かべる。自分の臍を亀頭の先端にこすりつけるように、くねくねと肢体をくねらせた。 ロベリアの繊手が、柔らかく大神の怒張を包み込んだ。我が子を包む母の手のように、注意深く、そして優しく。刺激を与えすぎないように。 「待ちかねたかい? 涙まで流してるよ……」 ロベリアはうっとりと目を閉じ、亀頭の先端の亀裂に口付ける。滲み出た透明の液体がロベリアの薄い唇を濡らす。 「ううっ!」 小さく開いたロベリアの唇が、先端を包んだ瞬間、思わず大神がうめく。 舌の先端が亀裂に侵入すると、大神の全身がビクンと震え、手錠の鎖がぎちぎちと音を立てた。 「んむ……」 亀裂に舌を差し込んだまま、怒張をゆっくりと口に含んでいく。ぬるぬるとした感触が、大神を更なる歓喜に押し上げていく。 「う……あ……あっ……!」 (いいだろ、隊長………) ロベリアの頭が、ゆっくりと前後に動く。唇でこすりながら、舌は別の生き物のように絡みつき、なめ上げた。 同時に豊かな胸を大神の太腿にこすりつけ、自らも快感を貪った。大神の腿と自らの身体に押しつぶされた乳肉が、ロベリアの動きに合わせて前後にひしゃげる。 「ロ……ロベリアっ……!」 大神の叫びにも似た声に、ゆっくりと怒張を引き抜くロベリア。口元の唾液を軽く手で拭い、ちろり、と舌でなめ取る姿は、たとえようもなく妖艶。 「シたいんだろ……でも、まだダメだよ……」 ロベリアは切なげな大神の表情から目を逸らす。うつ向き気味に身体を上にずらし、胸のボリュームを誇示するように腕で挟んで持ち上げた。 (もっと、もっと……忘れられなくなるぐらい……ね) 胸の肉を大神の怒張に押し付ける。弾むような感触で柔らかく包み込まれ、どくどくと脈打つ怒張が歓喜に震える。 「あったかいな……」 胸の谷間に大神の怒張を挟み込み、ロベリアはうっとりと漏らす。わずかに顔を覗かせた亀頭に口付け、乳肉でこね回す。 (あったかい……ものなんだな……始めて知ったよ……) 大神からはロべリアの顔は見えない。もし見えていたら気付いただろう。 ロベリアの切れ長の目に、光る雫が浮かんでいたことに。 ぽたり、ぽたりと、自らの双球の上に雫が滴り落ちる。それを隠すように、ロベリアは乳肉で怒張をこする。 「うっ……ろ、ロベリア……」 苦鳴とも、歓喜の声ともとれる大神のうめき声。 (愛しい……) 手で抱えた乳肉を前後に動かしながら、亀頭をなめ、口付けるロベリア。小刻みな甘美が大神の身体を振るわせる。 「いいよ、隊長……イキなよ……」 大神の全身がビクビクと硬直する。 「うっ………くうっ!!」 一際大きく大神が震えた。ロベリアは口を離し、胸肉を動かす速度を上げる。大神の息が荒くなる。そして、ロベリア自身の息も。 「くううっ!!」 どくん。脈動が大きくひとつ。 びゅっ。ロベリアの胸の谷間から、マグマのように熱を持った白濁が噴き出した。 びちゃ。白濁液は一直線にロベリアの頬に飛び、飛び散った雫がロイド眼鏡を汚す。 ぽたり。流れ落ちた精液が白い胸に弾けた。 「ん……んむ……」 ロベリアが、未だ液を溢れさせる怒張を口に含み、一滴たりとももらすまいとばかりに、吸い付くようにしてなめ取った。 その時大神は、ロベリアがまたがった自分の太腿に、ぬるりとした感触を感じていた。 「すごい量じゃないか……気持ちよかったか?」 大神の精液を顔に乗せたまま、ロベリアの顔が近づいてきた。 「ああ……最高だよ……」 大神がそう言うと、ロベリアは満面の笑みを浮かべた。大神は、「親に誉められた少女のような笑顔だ」と思った。 ちゃり、と鎖が鳴った。 「なあ、隊長……次はどうして欲しい……?」 大神の首筋に顔をうずめ、ロベリアが尋ねた。だが、大神は返事をしない。 「……隊長? まさかもう満足しちまったんじゃ……」 「ロベリア……そうじゃないんだよ」 「……?」 大神は、ロベリアの耳元にそっと口を寄せる。 「ダメなんだよ、それじゃ」 ロベリアが怪訝な顔で、頭を離して大神を見る。 その時、ある違和感。 「……え?」 腕が動かない。 「あ、アンタ………!?」 ロベリアは、腕ごと大神に抱きすくめられていた。彼の手を拘束していた手錠は、外されて枕の上に転がっている。 「い、いつの間に……」 「ロベリア……君だってもう、我慢できないはずだよ」 呆気に取られるロベリアを抱えたまま、大神がするりと体勢を入れ替える。今度は、大神がロベリアを組み敷く形になる。 「濡れてるよ……俺の足が」 大神は、見えるように自分の腿を浮かせる。ロベリアの分泌液が、その下にあった大神の太腿をべっとりと濡らしていた。 「そ……それは……」 「いいかい、ロベリア。俺は君に何かして欲しいわけじゃないんだ」 「し……知ったこっちゃないね、そんなの……」 弱々しく大神の腕の中でもがくロベリアの姿は、巴里市民を恐怖のどん底に陥れた「巴里の悪夢」の姿ではなかった。 「ちょっと……んむっ!」 抗議しようとするロベリアの口が、大神の唇にふさがれた。 「んっ……んふ……」 するすると大神の舌が侵入してくる。拒むこともできないまま、ロベリアは愛しい男の舌を受け入れた。 ぴちゃぴちゃと、唾液の絡む音が妙にはっきりと聞こえた。 知らず知らずのうちに、巴里の夜を震撼しからしめた大悪党は目を閉じ、男の背中に腕を回していた。 「な…何すんだよっ!」 おののくような、ロベリアの悲鳴。 彼女の両手首は、しっかりと手錠で拘束されていた。 「いいからじっとしてるんだ、ロベリア……不安になってるのか?」 大神の静かな声。先ほど、自分が大神に対して発した台詞を、そのまま返されることになろうとは、さしもの「巴里の悪魔」にも考え及ばなかった。 「だ、誰が! このアタシが今さら、手錠ぐらいで!!」 そうか、と呟くように言い、大神が手錠をベッドに固定する。言葉とは裏腹に、ロベリアの体が硬直した。 「じゃあ……足も拘束しちゃおうか?」 大神が、ロベリアの両足首をがっちりと掴む。 「や、やめろっ!」 咄嗟に出た声は、明らかに怯えを含んでいた。だが、大神は構わず足首にロープを巻きつけていく。 「や、やだよっ! やめろよ、隊長……」 「そんなこと言って、興奮するんだろう? 刑務所にいた頃を思い出すのかい?」 「す……するか、バカ野郎っ!」 ロベリアの長い脚を拘束し終えた大神は、その引き締まった太腿に指を這わせた。 「ひぁっ!」 ビクンと長身が跳ねた。 自らの言葉を裏切るように、火照ったロベリアの全身は、わずかな刺激にも過剰に反応する。溢れ出す愛液が内股をベトベトに濡らし、荒い呼吸が絶えず口を突く。 その間も大神は、身動きの取れないロベリアの身体を弄うように愛撫していく。もっとも敏感な個所には決して手を触れず、微妙なラインをなぞるように動く大神の手は、さきほどまで自分が大神に与えていた「甘美なもどかしさ」を植え付けていく。 「この……アタシを……弄ぶなんざ……100年……早いんだよ……」 ぎりぎりと歯を食いしばり、必死で快楽に耐えるロベリア。しかし、やがて食いしばった歯から力が抜けていき、ただ歯をカチカチと鳴らすだけとなる。 「いいんだよ、ロベリア………解放しても」 ロベリアはぼんやりと大神の声を聞いていた。どこか、遠い場所で響いているように、現実味のない声。しかし穏やかな響きは彼女の心に、不思議な落ち着きをもたらした。 「かい……ほう……」 眼鏡ごしに大神の顔を見る。見えているのかどうかも怪しい、とろんと霞んだ視界。 「………うん………」 そのまま、ロベリアはコクリと肯いた。 |