不確定なぼくらは。

第10話

「どうしたものかな、うちの子供たちは」
 風呂上がりの濡れた髪をそのままに、リビングのソファに腰を下ろしながらマコトがぽつりとつぶやいた。先にソファに陣取ってぼんやりテレビを眺めていた忍は、待ち構えていたようにすぐにマコトに身体を寄せる。リビングには二人きりだ。いつもたいていこの時間には子供たちはそれぞれの部屋に引き上げてしまう。
「ボクは、そんなに気にすること無いと思うけどなぁ」
 まるで興味が無さそうにそう言うと、当然のようにマコトの膝に頭を乗せる。忍としては早々にその話題は切り上げてしまいたいらしい。実の息子にすら、マコトの気を惹いていることに嫉妬しているふしがある。マコトは幼い子供でも見るような目でやれやれとため息をついた。
「まったく……うちで一番手が掛かるのはお前だよ、忍」
 言葉ほどには突き放していない柔らかな手つきで、忍の長い髪を梳いた。長年連れ添って来た仲だ。忍も言うほど突き放しているわけでは無いとわかっている。耳の後ろをなでる指先に気持ち良さそうに擦り寄りながら、忍はマコトを見上げる。
「掛けてるんだよ。マコちゃんがボク意外のことに気を取られないように」
 悪びれもせずそう言い放つ忍の頬を、マコトは軽くつねった。
「あん、マコちゃんの愛の鞭……」
 逆にうっとりされて、苦笑する。どんな些細なスキンシップでも忍は嬉しいらしい。良くも飽きないものだと思う。
「これが原因かもな」
 自戒気味にマコトが零した。
「何が?」
 ねだるように頬を擦り寄せながら忍が訊ねる。その仕草がまるで猫だな、とマコトは思う。
「あの子らが浮き足だつのがだよ」
「何それ」
 きょとんとする忍に、マコトはまた苦笑する。
「そうだな、なるようにしかならないのかもな」
 答えにならない答えが返って来て、忍は不満そうに眉根を寄せる。
「も〜、マコちゃんまた一人で納得してる」
 今度は、マコトは答えなかった。物思いに耽るように顎に手を当て、目を閉じる。こうなるともう、相手をしてくれないと判断した忍は、大人しくそのまま一緒に目を閉じた。
 誰に見られるでも無いテレビの声が、リビングに響いていた。

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