大天使の腕の中で



「…う、いけねえ。整備しながらうっかり寝ちまった」
 コジロー・マードックは、明かりが消えてすっかり暗くなったドッグの中で目覚めた。
「チッ、誰も起こしちゃくれねえのかよ。薄情なやつらだな」
 ぶつぶつと誰もいない空間にひとりごちながら自室に戻ろうと立ち上がる。と、キャットウォークを人影がよぎったような気がした。
「うん? 誰かいるのか? しかしあっちは行き止まりのはず…」
 不振に思ったマードックは影の消えた通路に向かって歩き出した。AAの駆動音だけが不気味に響くドックを抜け、普段は人気のないデッドスペースである通路へと入る。と、通路の行き止まりにうずくまる人影を見つけた。
「おい、誰かいるのか?」
「!!」
 弾けるように振り返ったその人影の正体を見てマードックは絶句する。
「こ、こりゃあ…バジルール少尉じゃねえですか…」
「そ、軍曹…! こ、これは……!」
 普段こんな場所になど絶対に来ないであろうその人物がひどくうろたえているのを、マードックはわけがわからないといった様子で見つめていたが、その挙動の不自然さに気付いて居心地が悪そうにぎこちなく笑いながら視線をそらす。
「その……誰にも言わないで…くれ。お願いだから…」
 バジルールと呼ばれたその女性は、全開になった前合わせの上着のファスナーを閉じることも出来ず、震える手で必死に握りしめながら目を合わせようともせずに真っ赤な顔で懇願していた。そのスカートは太股が見えるほどめくれ、ストッキングも真っ白なショーツと一緒に膝の位置までずり下げられている。上気した肌と荒い息。マードックは確信した。彼女はこの場所で自慰にふけっていたのだ。
 マードックは考えあぐねていた。ここは見なかったふりをして立ち去るべきか、それとも彼女の言い分を最期まで聞くべきなのか。そして彼は後者を選んだ。
「えー…と、その、余計なお世話かも知れねえですが、いろいろストレスが溜まってんじゃねえですか? もしよければ相手になりますぜ。…あ、いや。変な意味じゃなくて、その…」
 いくら有能とは言え、なりゆきでこれほどまでの重責に耐えねばならなくなったふたりの女性士官の心中を思いやり、放ってはおけないと思った。と、怪訝そうにこちらを見上げているしどけない上官の姿に改めて気付き、あわてて後ろを向く。
「あの、必要ねえなら、このまま部屋に戻りやすんでっ!」
 しばしの沈黙と気まずい空気が流れる。返事などできるわけがない、このまま帰ろう、と、マードックが思いかけたその時、バジルールは消え入るような声で重たい口を開いた。
「そばに……来てくれるか…?」
 普段からは想像も出来ないような弱々しいこえにドキリとする。ごくりと息を飲みながら覚悟を決めて振り返ったマードックの目には、しかしキッチリと服装を整えてしまったバジルールが膝を抱えて座っていた。少しだけ期待していた自分を恥じながらも、マードックは言われるままに歩み寄り、バジルールの隣に腰をおろす。

「一体、何だってこんな…」
 マードックの至極当然な問い掛けに、バジルールは吹っ切れたのか、淀みない声でぽつりぽつりと語り始めた。
「苛々が高じると、だめなんだ……艦橋にいる間は全て忘れていられるが、一人になると……歯止めが効かなくなる」
 ふう、と、溜息で一旦区切ると、またすぐに言葉を続ける。
「最初は自室で処理できたんだ。でも、そのうちそれだけでは満足できなくなって……居住区の空き部屋や下士官用のシャワー室で……誰か来るんじゃないかと思うと、そのスリルが堪らなくて……」
「それで…こんなところで?」
 それまでただ黙って聞いていたマードックが遮るように口を挟む。バジルールは答えず、肯定を示すかのように目を閉じて顔を伏せる。
「新しい刺激を見つけても、慣れてしまうとそれでは満足できなくなって……どんどん、歯止めが効かなくなって行った。いけないことだと頭では分かっていても自制できないんだ……!」
憎々しげに吐き捨てた。
「へぇ、少尉みてえなお人でも人並みの性欲があるんすねえ。結構なことじゃねえですか」
 妙な所で感心するマードックに、バジルールは顔を上げて困惑の表情を向ける。
「一人で抱え込むからいけねえんじゃねえですかね。何もこんなとこでこそこそマスかいたりしなくても、ブリッジにゃ色男がいっぱいいるんじゃねえですか?」
「個人的な下らん理由で部下に手を出せと!? それじゃなくともっ……」
 激昂したようにまくし立てたかと思うと、急に勢いを無くした声が尻すぼみになる。
「それじゃなくとも、こんな、可愛いげのない女……」
 最後まで言い切らずにまた顔を伏せてしまった。あとから溜息だけが力無くついてくる。
『そりゃ確かに、いつものあの調子じゃ可愛いげはねえわなあ……けど……』
 本音はぐっと飲み込み、今この場に相応しい言葉を模索する。沈黙するマードックに、悟ったようにバジルールは言葉を続ける。
「……男はみんな、ラミアス艦長のような女性に惹かれるのだ。軍曹だって……」
「何言ってんですかい!」
 彼女の中で妙な結論が導き出されてしまったことに焦ったマードックは慌てて制した。
「少尉にゃ少尉の魅力ってもんがあんですよ! 比べられるもんじゃねえ!」
 確かに「艦長と副長どちらが好みか」と雑談中の部下にでも問われれば迷わず「艦長!」と答えるだろう。あの大きな胸と少し甘えたような話し方に魅力を感じない男なんていないはずだとまで思う。しかしそれは裏を返せば大して興味もない女性を判断する基準なんてその程度でしかない、男の悲しい性(さが)なのだ。今自分の目の前で普段は絶対に口にすることのない弱音を吐き、少なからず自分を頼り甘えてくる上官にどうして心惹かれずにいられようか。否。今、目の前にいるのは、少尉の肩書きを持つ自分の上官でも、AAという新造戦艦の副艦長でもない、「ナタル・バジルール」と言う名の一人のか弱い女性なのだ。
「少なくとも、今の俺にとっちゃ少尉の方が魅力的でさあ!」
 キョトンとした顔でこちらを見るナタルに、マードックは「参ったか」と言わんばかりの荒い鼻息を浴びせた。
「……ならば軍曹は、私を抱けるか?」
「へ?」
 予想外の反応に面食らう。
「いい、わかっている。お世辞や同情で返されても惨めなだけだ。気遣いは、感謝する。ありがとう」
 少し寂しげにふっと笑うとゆっくりと立ちあがり、しっかりとした足取りで歩き出す。その通りすぎようとするナタルの細い腕を、マードックは咄嗟につかんで引き倒す。
「そんなこと言って、俺が本気になっても少尉は後悔しねえんですかい!?」
 いともあっさりとそのたくましい腕の中におさまってしまった弱く細い肩を力強く抱きしめながら、マードックは湧き上がる劣情と葛藤していた。
「そういうことは、惚れた男にだけ言ってりゃいいんだ。でないと、勘違いしちまうでしょうが」
 抱きしめた腕に自然と力が入る。と、それに答えるかのように弱々しくもしっかりと抱き返されて、いよいよ理性の糸が弾け飛ぶのを感じた。
「勘違いで結構だ。軍曹こそ、後悔しないのか…?」
「ここでやめちまう方が、よっぽど後悔するでしょうよ」
 照れ隠しにへへっと笑って、マードックはナタルの細腰を引き寄せる。

「あ……」
 密着すると、明らかにお互いの体温が上昇しているのがわかる。
「言っときやすがね、俺ァ優しくなんて出来やせんぜ?」
 太股を撫で上げるようにスカートに手を差し入れ、最初は戸惑うように、それから大胆にストッキングを越えてショーツの中へと侵入させて行く。ヒップを直に撫でさすられ鷲掴みされながら顎のラインを舌で嬲られて、ナタルはビクンと肩をすくめた。そうしている間にもあいたほうの手で上着のファスナーをおろされて、下着の上からやわやわと乳房を揉まれる。
「か…かまわん。軍曹の、好きにし……んふぅっ…!」
 尻の柔肉を存分に犯した手指が新しい獲物を求めてうごめく。と、既に背後の蕾までをも十分にうるおわせていた水脈を発見し、源流を求めてさらに奥へと突き進む。ナタルは自分の秘部をまさぐる荒々しい指先の動きにあわせるように、不安と期待にさいなまれながらその身を震わせる。
「いけねえ副長さんだなあ。俺としゃべりながらこんなにしちまってたんですかい? ケツの割れ目までグチョグチョじゃねえですか」
 何もしなくともすっかりほぐれてしまっている秘裂にゆっくりと分け入りながら、マードックはお互いの緊張をぬぐい去ろうとわざと下卑た言葉でちゃかしてみせた。そして、まるでMAの機体をメンテナンスでもするかのようにナタルの反応をひとつひとつ探っていく。
「…ぁ、ぐんそ……んっ、はぁぁ…っ!」
 侵入させた指がキュッと締め付けられ、夢中で支える腕とその指先に力が入る。いつの間にかブラジャーの内側に侵入したもう片方の手が先端の突起をこねるように摘み押しつぶす。ナタルがたまらず白いのどを仰け反らせると、すかさずその無防備な部分を強く吸われた。
「ぁあっ……! っ、くふ…っ」
 淫らな喘ぎ声がその口から漏れそうになり、慌てて堪える。その健気な様子に、少し余裕の出て来たマードックは楽しそうな笑みを浮かべはじめた。
「ここがいいんですかい?」
 首筋に熱い息を吹き掛けながらすっかり堅くなった乳房の突起を軽く引っ張る。
「んんっ、ヤぁ…っ」
 ギュッと目をつぶり、真っ赤な顔でうわ言のように漏らす。
「じゃあ、こっちか?」
 下肢への蹂躙を絶え間なく続けていた節くれだった指を、限界まで突き入れて勢いよく内部をかき混ぜてみる。
「あぁ!! んぅう……っっ!!」
 それまで以上に入り口がきつく絞まり、背中にまわされた手がその表面に指先を食い込ませてくる。かすかに感じた背中の痛みに一瞬顔をしかめながら、マードックは勿体ぶるように動きを止めて指を引き抜いてみせる。それを逃すまいとする本能が秘肉をヒクつかせ、無意識のうちに切なげに自らの秘裂をマードックに押し付けていたナタルは、ハッとして慌てて身体を離そうとする。が、マードックのたくましい腕にはかなわず、再び内壁をえぐるように指をつき入れられた。
「あぅっっ、ぐ…そう……っ!」
 首筋に絡み付いていた舌が徐々に下方へと進行をはじめる。いつの間にか背後にまわした手で器用にブラジャーのホックをはずし、控え目な肉付きの双球をあらわにする、と、すぐさまそれにむしゃぶりつく。下から突き上げてくる指先に誘導されるように膝立ちになったナタルは、胸の先端を舌で転がされる刺激と、秘裂の内壁を擦られる快感にただビクビクとその身を震わせるしかなかった。
「もう少し肉つけたほうがいいですぜ。ちゃんと食ってやすか?」
「はぅ…ん、うふぅ…っ」
 マードックのからかいにも力なく首を振ることでしか反応できない。下腹部を指で突き上げられるたびに、そのあまりの快感に思わず上へと逃げてしまう。その体躯の上昇に相反するようにマードックの舌は下方を目指す。胸の頂きを惜しむように離れ、粘液で腹部を撫でながらストッキングと愛液に濡れたショーツを一気に下ろし、窮屈そうに目の前で悶える熟れた果実を解放する。ナタルはうまく力の入らない腕を壁について必死で上体を支え、下肢へと集中しはじめている刺激に身をよじった。
「おほ、こりゃいい眺めだ」
 気付くとナタルは地べたにどっかり座ったままのマードックの顔をまたぐように立たされていた。
「やっ、な……こんな…っ、軍曹っ!」
 自分の秘部をまじまじと見上げる視線に、羞恥に染まる潤んだ声で抗議する。閉じようとした足には力が入らず、すぐにマードックの手によって制されてしまう。
「さっき少尉、俺の好きにしていいっておっしゃったじゃあないですか」
 ニヤニヤといたずらな笑みを浮かべながら、意外にも肉付きのいいふっくらとした土手に両手の親指をあてがい、思いきり左右に押し広げる。
「い、イヤ……」
 しかしその声色は見せ掛けだけのそれとわかる、弱々しい拒絶。あらわになった蜜壷からは見る間に淫水が溢れだし、すらりと長く伸びる太股をつたい流れ落ちるほど。
「ここはそうは言ってないようですぜ」
 言いながら、マードックは綺麗な朱鷺色に濡れ光る花弁に無遠慮に舌を這わせる。
「ひゃんっ……!」
 ビクン、と身体を弾かせてナタルは冷たい壁にすがりつく。マードックの舌は生き物のようにひだの一筋一筋を丁寧に舐めあげていく。その隙間からピチャピチャと言う粘質の淫靡な水音が漏れだし通路一帯に響き渡ると、ナタルの頭の中は真っ白になった。
「ぐんそ…ぅ、はあぁ…ん」
 まるで喉の乾きを潤そうとでもするかのように蜜壷の周囲を舐めまわし、舌を差し込み、ジュルジュルと吸う。
「お……お願いだ……もぅ……っ」
 マードックの執拗な愛撫に、ついに堪え切れなくなったナタルは嗚咽にも似た声で哀願をはじめた。それを待ちわびていたかのように、マードックはその秘裂から唇を離した。
「もう、なんですって?」
 油にまみれた作業服の袖で、自分のだ液とナタルの愛液でビショビショになった口元を拭いながらヨッコラショと立ち上がる。その下腹部を不自然に膨らませている正体にチラチラと視線をやりながら、ナタルは困ったように瞳を潤ませる。
「お願い……軍曹、もう……て…」
 消え入るような声でボソボソとつぶやく。それを聞いたマードックはツナギのファスナーを下ろして上半分をはだけ、アンダーシャツの上からでもそれとわかる少し日に焼けた筋肉質の上半身を晒す。そして、急に真面目な顔をすると改めてナタルに問いかけた。
「本当に……いいんですかい?」
 声には出さず、ナタルはコクリとうなずいた。
「それじゃ、いきますよ」
 背後からナタルに覆いかぶさると、とうの前からいきり立っていたそれをナタルの秘裂に当てがい、ひと呼吸置いた後、意を決したようにゆっくりと沈めて行く。
「あぁっ…!」
 肉壁を押し広げながら侵入してくるマードックを受け入れながら、ナタルは歓喜の嬌声をあげる。たっぷりと蜜を貯えた自分の膣内でビクビクと脈打ちながら最奥を目指していたそれが目的地に到達して動きをとめると、徐々にスピードを上げながらリズミカルに動き出す。
「あっ、あんっ、あふぅっ」
 腰を両手で押さえ付けられ背後から突き入れられるのを、最初はされるがままだったナタルが次第にぎこちなくも懸命に動きを合わせてくる。その初々しさにマードックは高ぶりを抑え切れなくなる。抽送をくり出しながらナタルの片足を持ち上げ、さらに奥をえぐるように突き入れはじめた。
「少尉! 辛くねえですか!?」
「あんっ、ぐんそ…い…ぃの、んっ!」
 快楽に溺れる淫らな顔を向けながらナタルが息も絶え絶えに答える。思わず抱き締めたくなって、マードックは貫いたままにナタルの身体をひねらせ、向い合せの状態にして抱き上げた。
「ふぁっ、んっ!」
 自らの体重をマードックと繋がっているその一点で支える形になったナタルは、慌ててすがりつくようにマードックの首に腕をまわす。と、待ちわびていたように口腔内に舌が差し込まれ強く吸われた。
「はむ……ん…」
 唇をなぞられ、舌を絡められると、夢中になって絡め返しながら吸い付く。お互いのだ液を貪るように味わいながらも、マードックは抽送の動きを緩めない。
「んっ……はぁっ、軍曹っ!」
 堪え切れないように唇を離したナタルが、胸までつたうだ液の筋を拭うことも適わず喘ぐ。
「は…んっ、も…ダメ……ん…っ」
 登りはじめたナタルの膣内がジワリと圧力を増す。元よりきつめだった膣壁がより一層狭くなったことで不覚にも一気に射精感に襲われたマードックが思わず引き抜こうとする。が、首にまわされた腕と抱き上げた両足が強く絡み付き離そうとしない。
「はっ…、少尉、ダメだ! 出ちまう!」
「ぐんそ…この…まま、お…ねが…ん…――――――っ!!!」

 本能が理性を押し退けるのを感じた。マードックは射精の瞬間、自ら最奥へと突き入れていた。ドクン、と白濁した欲望が吐き出されて行き上官の内部を侵して行く。

「はぁ……、少尉、すまねえ…」
 きびきびとした動きで既に服装を整えてしまったバジルールにマードックは申し訳なさそうに声をかける。さっきまでこの場で見せていた痴態など微塵も感じさせない顔が振り返る。
「安心しろ。私とて考えもなしに受け入れたわけではないぞ」
「と、いいますと?」
「女は何も年がら年中受精が可能ではないと言うことだ」
 つまり安全日と言うことか、と、すっかり自分を見失っているように見えて妙なところで冷めている女という性に、マードックは感心しつつも末恐ろしさも心の奥で感じた。
「ところで軍曹……」
 またいつもの調子に戻ってしまった上官をちょっぴり寂しい思いで見送りかけたマードックに、バジルールはかすかに濡れた声を投げかける。
「もしよければ……またこうしてくれるか…?」
「えぇ? …と、そのぉ、本当に俺なんかでよろしいんで?」
「何度もくどい! ぐ、軍曹こそ、嫌ならハッキリ言っても、いいのだぞ!?」
「いやあ、めっそうもねえ。俺ァいつでも大歓迎でさァ」
 マードックの返事を聞くと、バジルールは軍帽を深くかぶり直しながらぎこちない足取りで副長室へと戻って行った。その不器用な後ろ姿をマードックは優しい笑顔で見送った。

 数日後。
 マードックはキラ達とともに入手したばかりのソナーの調整を行っていた。そこにブリッジからの通信が入る。
「マードック曹長、ソナーの準備はどうなっている?」
「今やってまさぁ。坊主が最後の調整中です。もう少し待って下さい!」
「急げよ、それと…自分より上の階級の者を“坊主”と呼ぶのはどうかな? 規律の乱れることだ。注意しろ!」
 いつに無くぶっきらぼうな物言いにマードックはたじろぎながら頭を掻く。
「急げってさ」
 傍らのキラに復唱して伝えると、隣にいたフラガがやれやれと言った様子で口を挟む。
「今日の副長さん、いつになく機嫌悪いみたいだねぇ」
 向こうで調整の手伝いをしていたトノムラやチャンドラも苦笑しながら話に加わる。
「おおかた、また艦長と意見が合わなかったんじゃ無いっすかね」
「俺達は慣れてるけどなあ。曹長、災難っすね」
 CICのメンバーが口々に茶化すのを、マードックは豪快に笑いながら冗談めかした。
「なあに、副長殿は俺様の気を引きたくてしょうがねえのよ。控えめなラブコールだと思やァ、いじましいことじゃねえの」
 マードックの物言いでドック内に笑いの渦がおこる。
「ないない、絶対ないって。あの中尉が? ありえねぇ〜!」
「曹長にぞっこんの中尉なんて想像もつかないよなあ」
 ともすればバジルールへの反感が強まるのではないかと思われたその場が和むのを見て、マードックは胸をなで下ろした。
『まったく……勘弁して下せぇよ、副長殿』
 呼ばれた瞬間人知れずキモを冷やしていたマードックは、ひとり苦笑いを浮かべるのだった。





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