ムエタイレディはオレンジ道着の夢を見るか・後編



「さて、どうやって謝ってくれるんだ…キング?」
 普段のリョウからは考えられないような居丈高な態度で、椅子にふんぞり返りながら、リョウは目の前の床にひざまずくキングに尋ねた。
「あの……どうすれば……」
 不安そうにリョウを見上げるキング。
「いいから、お前の誠意を俺に見せてくれよ。満足したら許してやるぜ」
「せいい……あんっ!」
 キングが短い悲鳴を上げる。リョウが椅子に座ったまま、足の指でキングの剥き出しの乳首を弄んだのだ。
「早くしろよ……急ぐのも誠意のうちだろ」
「はい……失礼します……」
 キングは膝をついたまま、おずおずとリョウににじり寄る。膝立ちの姿勢でリョウの道着をはだけさせ、力なくうなだれたままの逸物を取り出すと、大事そうに手で支えてそろそろと舌を這わせ始めた。
(硬くなってない……)
「ちゅ……ん……んちゅ……」
 陶然と目を閉じ、キングはリョウの逸物に愛撫を繰り返す。まんべんなく全体に口付けを繰り返し、すくい取るように舌で舐め上げ、先端を口に含む。
「んっ……んっ……んむ……」
「いい顔してるぜ……キング……」
 リョウはため息をつくように呟きながら、ゆっくりとキングの髪に指を通す。体の血が下腹部に収束していく感覚に、リョウの口からは絶えず熱い息が漏れる。
「もっと深くくわえろよ……そんなんじゃ、夜が明けちまうぜ」
「ん…んん……んふぅ……」
 ちらり、と視線だけでリョウを見上げ、小さくうなずくと、キングの口はさらに奥までリョウの逸物を包み込む。
 キングの口の中で、リョウの分身は少しづつ硬度を増していった。
 びくん、びくん、と断続的に脈動があり、その度に硬く、大きくなっていく。その感触を確かめるように、キングの舌はリョウの肉棒をこすり、巻きついた。
「うっ……」
 びくんびくん、と、逸物の脈動に合わせるかのように、リョウの全身が硬直する。
(リョウ……感じてるの……私の口で……)
 さらに愛撫を続けようとした時、突然リョウの手がキングの頬を押さえた。
「んぅ…?」
「口はもういい、十分だ」
 そのまま、ゆっくりとキングの口から、隆々とそそり立つ怒張を抜いた。キングの唾液で、ぬらぬらと濡れている。
「は……ぁ……」
 恍惚とした表情で、キングはリョウの下腹部を見つめる。
「今のお前の目……たまらなくいやらしいぞ……」
「あぁ……ごめん……なさい……ご主人様……」
 リョウの指摘に眉根を寄せながらも、キングの視線は怒張から外れない。
「いいから…続きはどうした? それともお前の誠意はその程度か?」
 リョウの弄うような言葉に、キングは慌ててふるふると首を振った。そして、自らの豊かな胸肉をかき集めるようにすくい上げ、上目遣いに尋ねる。
「あの……ご主人様……私の胸……お好きですか?」
「ああ…早くしてくれ」
 短く告げ、リョウはキングが奉仕しやすいように膝を開く。するするとその間に身を入れると、キングは弾むような双乳でリョウの怒張を挟み込んだ。
「あぁ……ご主人様……熱いですぅ……」
 胸から伝わる熱に、キングはうなされたような声を出す。
「いいから続けろよ…余計なことは言わなくていい」
 リョウの冷たい声が飛ぶ。キングはビクッと全身を硬直させ、それからおずおずと柔肉を両手で押し付けていく。
 ぐにゅ、ぐにゅう……。音がしそうなほどひしゃげたキングの乳肉が、柔らかくリョウの怒張を包み込む。胸の谷間から出入りするリョウの亀頭に、キングは愛しそうに舌を伸ばした。
(リョウの……濡れてる……)
 塩辛いような、苦いような味。リョウの亀頭からわずかに分泌される液体を、わずかも無駄にするまいとばかりに、キングは必死でちろちろと舌を動かす。
(リョウ、イクの? ……私の顔に出すの?)
 期待と不安の入り混じった表情で、ビクビクと脈打つ亀頭に口付けると、ちゅうちゅうと音が出るほどに吸い上げる。
「うッ!」
 リョウは低くうめいて、全身を硬直させた。次の瞬間、キングの胸の谷間から、勢いよく白濁液が噴き出す。
「あんっ!」
 びちゃっ! 音をたてながら、リョウの精液はキングの顔に飛び散った。
 びちゃ! びちゃ! びちゃっ!
「あ……あぁ……あつい……」
 大量の精液はキングの顔面を白く染め、だらだらと流れ落ちる。顎の先端から白い喉を伝い、豊かな胸の上に滴っていくつもの染みを作る。
「なんていやらしさだよ……普段のお前はどこへ行った?」
「うぅん…ちゅ……これが……これが本当の私なんですぅ……」
 潤んだ目でリョウを見上げるキング。長い睫毛をも精液で濡らしている。
(あぁ……私、とんでもないこと言ってる……はしたない女だって……)
 リョウに向かって、怯えるような視線を向けるキング。
「お前はどんな女なんだ? 自分で言ってみな?」
 言いながら、リョウはピン! と立ったピンク色の突起を摘む。
「あぅん! ……わ、わたしは……」
 ぎりぎりと指を締め上げられられ、キングが切なげな悲鳴を漏らす、胸の先端から、鋭い痛みが広がっていくが、キングの体はその痛みさえも、痺れるような快感へと転化する。
(いたい……痛いのに……何でこんなに……)
 いつの間にか、ただ潤むだけではなく、キングの眼には涙が溢れていた。涙とこびりついた精液が混じり、つう、と頬を流れ落ちる。
「うぅぅん……わ、わたしはぁ……本当はぁ……いやらしい女ですぅ……ぅふぅ!」
 鼻にかかったような、どこか甘えるような声音で、一言一言、確認するようにはっきりと言葉を紡いでいく。
「お…おっぱいを苛められてぇ…ご主人様のを舐めながらぁ……」
「舐めながら……何だ?」
 ぎりっ、と一際強く、キングの乳首を捻り上げるリョウ。
「ひゃぁああん!!」
「言えよ……許して欲しいんだろ?」
 ぐすぐすと鼻を鳴らしながら、キングはコクン、とうなずいた。
「はい……許して欲しいです……言いますからぁ……」
 キングは自らの胸に挟み込んだリョウの怒張を解放し、頬擦りしながら何度も口付ける。
「私は、奉仕しながら……ご主人様のモノを……」
 途切れ途切れなキングの告白。一言ごとに、リョウは深くうなずいて先を促す。
「それで?」
「……私のアソコにいただけることを想像してぇ……」
 言いながらキングは、のそのそとその場に立ち上がり、足を肩幅まで開く。キングの秘所からは愛液がしとどに溢れ、引き締まった太ももを伝って流れ落ちている。
「こんなになるほど……興奮してたんですぅぅっ……」
 顔を真っ赤にしながら、叫ぶようにキングが告白する。
「よし、いい子だ……」
 リョウはキングの細い腰に腕を回して抱き寄せると、精液まみれになったキングに口付けた。

 夢から覚めた時、キングの指は泉のように蜜を噴き出す自らの秘所を弄っていた。服を着たまま、スラックスのボタンとファスナーを開け、ショーツの中に手を潜り込ませて。
「んっ……んぅ……はぅっ……」
 腰を浮かせ、足を指先までピンと突っ張らせたまま、くちゅくちゅと粘ついた音を立てる自慰行為に没頭していたのだ。
(こ……こんなこと……大会中なのに……)
 溢れた愛液がショーツに大きな染みを造り、キングの全身にはじっとりと汗が滲んでいる。呼吸は荒くなり、声を出すことすら我慢できなくなってくる。
「あぁん! はっ…はぁ、は……あぁぁぁぁ……」
 もう、自分の意志で指を止めることはできそうにない。連日の淫夢の影響か、体は異常なほど敏感に反応した。
(で、でも……もう……我慢できない……っ)
 秘唇に中指を埋め、奥へ奥へと突き進む。深く埋まった中指を、内壁をこするように小刻みに動かす。少し手前に戻し、Gスポットを刺激する。
「はあぁ……リョウ……リョウ……あうぅん!」
 声が漏れた。
(ああ……隣にいるのに……聞こえちゃう……)
 隣の部屋にいるリョウに、もしこの声を聞かれたら…そう思うだけで、キングの全身は震え、愛液はさらにその量を増やした。
「んはぁぁん!!」
 クリトリスを指で軽く押し潰しただけで、全身を電流が駆け巡り、キングは一瞬にして軽い絶頂を迎えた。だが、一度火がついてしまうとその程度では満足できない。熱く火照った体は、さらなる快感を求めていた。キングの秘所は、挿入を求めていた。
(な……なにか……)
 指では物足りない…キングは代わりに挿入するものを求めて、視線を巡らせる。ボールペンでも、ヘアブラシの柄でも、指より奥まで届くものなら何でもいいと思った。
 そして、愕然とした。
 部屋の中に、リョウの姿があった。
「ひっ!?」
 驚きのあまり声にならず、息をのむような悲鳴。裸なわけではないが、思わず布団を引き上げる。リョウはベッドサイドに立ち、じっとキングを見つめている。その表情は暗くてわからなかった。
(み……見られてた……リョウに、あんな……)
 死んでしまいたい。本気でキングはそう思った。恥ずかしい、などという次元ですらなかった。全身がガタガタと震え、カチカチと歯が鳴った。
 しかし、心の奥底から、じわじわと熱のようなものが沸きあがってくる。
(わ、私………興奮してるの……!?)
 どくん、どくん、という心臓の音が聞こえた。自分のものなのか、リョウのものなのかはわからない。
 ス…と、リョウがベッドに腰を降ろす。
「知ってるか、キング……」
 リョウは、一瞬身構えるキングの頬にそっと手をやった。
「お前の声……毎晩聞こえてたんだぜ」
「……えっ?」
 空いている手も添え、キングの顔を両手で挟むリョウ。
(わたし……毎晩あんなこと……してたの……?)
「それも、俺の名前を呼びながらだ……こっちがおかしくなっちまうよ」
 リョウの手が、キングの頬を撫でさするようにゆっくりと動く。
「あの……違うんだよ、その……」
 弁解しようとするキングだが、今更弁解の余地などあろうはずもなく。
「……違うのか?」
「あ………いや………」
 言葉を詰まらせてしまうキング。
「もういいんだ、キング……無理をするのはやめよう」
「リョウ……」
リョウはキングの頭を、胸の中にかき抱いた。耳元に口を寄せ、囁く。
「好きなんだ」
頬に当たるリョウの胸の温かさに酔いしれるように、キングは目を閉じた。
「生まれて初めて、本気で惚れた」
 キングはゆっくりと顔を上げながら、閉じていた目を開いた。じわり、と滲んだ涙が、みるみるうちに溢れ、そして零れ落ちた。
 リョウの首に両腕を回し、潤んだ瞳でリョウを見る。涙で滲んだ視界の中で、リョウの顔はキングの大好きな、照れ臭そうな微笑みを浮かべていた。
(ああ……私はこの顔に惹きつけられたんだ……)
 キングはリョウの笑みに吸い寄せられるように顔を寄せ、しがみ付きながら口付けた。長い長いキスの後、二人の唇は惜しむようにゆっくりと離れる。
「でも…いいのかい? こんな男みたいな私で…」
唇を離してから、キングがうつ向き気味に尋ねると、リョウの笑みが悪戯っぽく変わった。そして、掛け布団の端から素早く手を差し込み、シャツの上からふくよかな胸をそっと撫でる。
「これのどこが男みたいなんだよ?」
「こ、こら!」
 眉を吊り上げて怒ってみせるキングを、リョウはさりげなく押さえつける。組み伏せるような格好に持ち込み、耳元に口を寄せた。
「あ……ちょ、ちょっと……」
「お前だから好きなんだ」
 抗議しようとしたキングだったが、リョウの一言であっさりと沈黙してしまう。
 ゆっくりと覆い被さってくるリョウの重みを受け止めながら、キングは静かに目を閉じた。
(そうか……あの夢は、私の押し込めていた気持ち……願望だったんだ……)
「綺麗だぞ、キング……」
 リョウが、耳元で囁きながら自分のシャツのボタンをゆっくりと外していく。キングはドキドキと高鳴る鼓動を感じながら、ぼんやりとリョウの手に目をやっていた。
「ずっと、こうしたかったんだ……」
 リョウはそう呟きながら、キングの短く刈った金髪に口づけする。
「あっ……」
 シャツのボタンが外れ、薄いブルーのビスチェに包まれた胸が現れる。
「すごいな、キング…こんな胸、どうやって押さえてたんだ?」
 ビスチェの中で窮屈そうに収まっている胸に唇を寄せるリョウ。そのままビスチェのホックが外され、解放された乳房は喜びに震えるように、プルンと揺れる。
「あ……あぁ……ん……あぁん!」
 ツンと尖った突起を、リョウの指が優しくこねると、キングはたまらずに切なげな声を上げた。人差し指と中指で乳首を挟み、残った指で柔肉を揉む。
 白い喉を仰け反らせ、甘美な刺激に体をよじる。
「隠してたのが惜しいくらいの胸だ」
「あん……」
 耳元をくすぐるリョウの吐息に、キングは熱い息を吐いた。
 リョウの手がスラックスを脱がしにかかる。キングは抵抗もせず、リョウの腕に身を任せていた。
(夢と……同じ……)
 するり、とズボンが脚から抜け落ちた。鍛え上げられた、しなやかな脚がリョウの視線に晒される。ビスチェと同色のショーツを隠すように、キングは膝を立てた。
「あぁん……」
 リョウの指がショーツの上から秘唇をなぞっただけで、キングは甘い声を出し、閉じていた膝をそっと開く。
「あぅん!」
 ガードが緩んだ隙を突くようにして、ショーツの中に滑り込んだリョウの指が、はしたないほどに潤んだキングの秘唇を割った。
(ああ……こんなに濡れてる……)
 キングは呆然としながら、自らの秘所とリョウの指が立てる、くちゅくちゅという粘着的な音を聞いた。
「いやらしいな、キング……もう、欲しいのか?」
 キングのショーツをするすると脱がせながら尋ねる。
「……」
 キングは何も答えず、リョウに向かって迎え入れるように両手を開いた。
「おいおい、俺には何もしてくれないのか?」
 さっきしてあげたじゃないか、と言いそうになって、キングは慌てて口をつぐむ。夢の中と現実を混同していたことに気付き、さっと顔が赤くなった。
「ん……後で……するから……」
 キングの言葉に苦笑し、リョウは服を脱ぎ捨てる。キングが何もしなくていいほど、リョウの逸物は脈打ち、そそり立っている。
(リョウのが……私の中に……)
 思わずリョウの怒張に手を添えてしまうキング。そのまま、自らの秘所へと導いた。秘唇に当てたところで手を止め、ちらりとリョウの顔を見上げる。
「リョウ……して……」
 その言葉に反応したのか、リョウは膝をついたままキングに覆い被さると、そのまま腰をグラインドさせて力強くキングの秘唇に分け入っていった。
「はあぁぁん!!」
 ビクビクと全身を歓喜に震わせながら、キングはリョウの首にすがりつく。先ほどの自慰で火の点いていた体は、待ちに待った挿入を簡単に受け入れ、キングの脳に快楽の信号を送る。
「はぅ……あっ、あっ、あぁん!」
 挿入したままキングの体を抱き締め、リョウはゆっくりと腰を動かし始める。
「ひ……うぅん! ふぅ……はぁん!」
 引き抜く時に吸った息を、突き入れられた時に声と共に吐く。ぶじゅぶじゅと愛液を噴く音が、キングをさらなる高みへと引き上げていく。
「夢の中より……いいッ!!」
 押し寄せる快楽の波。キングは耐え切れずリョウの肩口に爪を立てる。が、リョウは痛がる素振りも見せず、キングの体に快楽を送り込んでくる。
「はぁん! あふ! あく! んんっ! ひぃん!」
 リョウの動きに合わせて、あられもないよがり声を上げる姿は、凛とした「ムエタイレディ」のイメージから、あまりにもかけ離れていた。
「その顔が見たかったんだ、俺は……」
 キングの腰を浮かせ、突き入れながら同時に肉芽への愛撫を追加する。やや乱暴に押し潰し、摘み、捻り上げると、キングの嬌声は一際高く、大きくなる。
「ひあぁっ!! すご……いい、いいよぉっ!!」
 ビクンビクンと、キングのしなやかな身体がバネのように撥ねる。
 さらに、空いた片手で乳肉を掴み、揉みしだきながら乳首をも刺激する。一瞬強張った体が、急速に弛緩していく。それは、キングが絶頂を迎えている証だった。
「あ、あ、あぁぁぁ……そんな、いっぺんに……ぃぃっ!!!!」
 休む間もなく行為は続いた。挿入と愛撫を一身に受け、キングの上体がベッドの上でもがく。逃げようとしているのではなく、快感に突き動かされての無意識の反応だった。
「あっ、あんっ! わ、わたし……飛んじゃうぅっ!」
 リョウの突き上げが一層激しくなるにつれて、シーツとリョウの肩口を掴んだキングの手に力がこもる。
「……最高だぜ、キング……イッちまいそうだ……」
「イッてぇ、リョウ! 私、もうダメ! リョウ……中にぃっ……」
 覆い被さるように、リョウがキングの身体を抱きしめる。
「ふぅあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「くうっ!!」
 どくん!
 熱い脈動を下腹に受け、キングの全身がいななくように震えた。
 どくっ! どくっ!
「あ……は……あぁ………」
 熱く、燃えるような迸りが、キングの中を埋めていく。
(リョウが……私の中に……)
 キングは弛緩する全身の神経を総動員して、力の抜けたリョウの身体を抱きしめた。腕を首に回し、両脚をリョウの腰に絡め、貪るように唇を吸った。
 ぴちゃぴちゃと、唾液と舌の絡む音が部屋に響いた。

「何か……不思議な感じだよ……」
 ベッドの中、リョウの胸に頭を預けたキングが、ぼんやりと呟く。視線を下げ、目だけで「何がだ?」と問うリョウ。
「リョウとこんな風になるなんて……それも、私が見てた夢と同じ展開でさ……」
「夢か……予知夢ってヤツかな?」
 リョウの意見に、キングは複雑な表情を浮かべる。
「ってことは、他の夢みたいなことも、これから起こるってのかい?」
 やや憮然とした表情で、キングが拗ねたように言う。
「かもな。……で、他にどんな夢を見たんだ?」
「えっ!? いや、それは……ま、まあ、いいじゃないかそんなこと!!」
「いやぁ、是非とも聞きたいな」
「う……うるさいね、しつこいよリョウ!」
 必要以上にうろたえ、声を荒げつつ、キングはシーツをまとってベッドを出る。
(……言えるわけないじゃないか、そんなこと!)
 心の中で呟き、窓に歩み寄るキング。白み始めた空を見上げ、リョウに聞こえないように小さく鼻を鳴らす。
「大会……頑張ろうぜ」
 しばらくキングの白い背中に見惚れていたリョウが言った。
「そうだな!」
 くるりと振り向き、キングが微笑む。その顔は、まるで憑き物が落ちたように晴れ晴れとしていた。
(もう夢に悩まされることも、ないだろうしね……)
 声に出さずに呟き、キングは再び自分の居場所――リョウの隣へと身体を滑り込ませた。





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