地球降下後、砂漠での滞在を余儀無くされたAAのクルーたちは皆思い思いのつかの間の休息を満喫していた。 下士官用の食堂でもまた、ダリダ・ロー・ラパ・チャンドラ二世とロメル・パル、そしてジャッキー・トノムラの3人が談笑まじりの食事の真っ最中である。 「……でさあ、俺もびっくりしちゃって」 「へぇ。あの中尉がねえ」 チャンドラとパルの含んだような物言いに、トノムラはきょとんとした顔を向ける。 「バジルール中尉がどうかしたのか?」 「ああ、トノムラもあの時はいなかったんだな。それがさあ、中尉、甲斐甲斐しくもノイマン少尉にドリンクの差し入れなんかしてさ」 チャンドラが半ば揶揄するような、どこか微笑ましげな口調で話す。 「中尉だって、差し入れくらいするだろう?」 少し動揺したようにトノムラが口を挟むと、追い打ちをかけるようにパルが告げる。 「他にバスカークやケーニヒなんかもいたって話だぜ。なのにさ、少尉にだけ、だもんなあ。あの二人、やっぱりそうなんじゃないか?」 と、二人の興味津々な視線がトノムラに集中する。トノムラはフォークを口に食わえたまま憮然とした表情になる。 「そりゃ……俺は確かにAA乗艦前からあの二人と一緒だけどさ。そこまで突っ込んだこと、知るわけないだろう……」 言いながら、なんだか悲しくなってくる。 『ノイマン少尉が相手じゃ適わないよな……』 ただでさえ手の届かない相手と諦めかけていた恋でも、一層遠のいてしまったと思うと殊更に落ち込む。トノムラはそのまま黙って立ち上がると、食べかけのトレイをカウンターに戻して食堂を出て行ってしまった。あとに残されたチャンドラとパルは顔を見合わせ、トノムラの心情を察してただ気まずい笑みを交わすのだった。 時は過ぎ、ゲリラの本拠地がレセップス撃破の祝宴ムードにつつまれている頃。 打ち解けたばかりのAAのクルーやゲリラの構成員が互いに盃を交わし讃えあう中、トノムラもまたいくばくかのアルコールでほろ酔い気分になっていた。するとそこに、少し赤い顔をしたムウ・ラ・フラガが声をかける。 「トノムラ軍曹、ちょっと」 自分に声が掛かるのは珍しいといぶかしがりながらも敬礼で答えると、フラガは微笑みながら手招きをする。呼ばれるままにフラガのそばに足を運んだトノムラは、それを見て一瞬状況が飲み込めずにフラガの顔とそこに横たわる人を交互に見つめた。 「いやー、反応が面白くてつい飲ませ過ぎちゃってさ。ちょっと、部屋まで運んであげてよ」 酔っているのかいつも以上に調子のいい口ぶりで、まるで手荷物でも預けるかのようにその人を押し付けて来た。 「え、ちょ……フラガ少佐?」 一気に酔いが冷めるのを感じながら、慌ててトノムラはその人を落とさないように必死に踏ん張る。自分の腕の中には、真っ赤な顔をしたナタル・バジルールその人がかすかな寝息を立てながら、さも当然のようにちょこんと収まっていた。 「あの生真面目な方の彼がさ、今、ブリッジに詰めてるから。君も一応、彼女の直属の部下でしょ?」 ひらひらと追い払うように手を振る上官の前で、トノムラはもはや黙って従うしかなかった。「一応」の余計な一言に引っ掛かりつつも、ナタルを気遣いながら喧噪の輪を抜けて歩き出す。 「少佐があんな風に言うってことは、やっぱり少尉と中尉……」 横抱きにかかえたナタルの、普段からは想像もつかないあどけない寝顔を見やりながら、トノムラはやるせない溜息を漏らす。 「この寝顔を、少尉はもう何度も見てるんだろうか」 つぶやいて、自分がひどくよこしまな想像に思いをめぐらせたことを恥じる。思わずこのままどこかに連れ去ってしまいたい衝動と葛藤しながら、気がつけばナタルの部屋の目の前に到着していた。 あらかじめ艦長から預かったマスターキーを差し込んで、しんと静まり返った彼女の部屋へと明かりもつけずに入る。途端に高鳴り出す胸の鼓動を意識しながら、トノムラはナタルのベットへ彼女をそっと降ろす。服を脱がせてやったほうがいいのだろうが流石にそこまでは躊躇されてベルトだけはずしてやってから毛布をかけた。静かな寝息を立て続けているナタルを見届け、名残惜しそうに背を向ける。と、上着の裾をクンッと引っ張られる感覚。驚いて振り返る。毛布の端から伸びたナタルのか細い手にその裾は握られていた。 「……ド……」 口をぱくぱくしながらナタルが何かつぶやいた。確認しようとトノムラは暗くて表情の見えないナタルの顔に耳を寄せる。 「行かないで……アーノルド……」 焦点の合わない眼を薄く開いたままつぶやく。酔って勘違いをしているのだろう。今度はハッキリと聞こえたその言葉。垣間見えた呼ばれた男との親密度にトノムラは言葉もでない。ショックで身じろぎも出来なくなったトノムラにナタルの手が伸び、引き寄せられる。突然のことに頭の中が真っ白になるトノムラをよそに、二人の唇がゆっくりと重なる。 「!!」 ますます二人の関係を見せつけられる衝撃と、今自分がナタルとキスをしているその事実がせめぎあう。長い長い口付け。次第にトノムラの中に黒い欲望が沸き上がってくる。 『勘違いするほうが悪いんだ……』 下半身に血液が集まって行くのとは反対に、頭はどんどんぼんやりと思考を持たなくなって行く。ついにトノムラは、ナタルの唇を割り自分を侵入させた。 「ふ……う……」 受け入れたナタルが舌を絡め返してくる。トノムラのなけなしの理性はそれで完全に消し飛んでしまう。 「中尉! 俺は……!」 ナタルの上に覆いかぶさり、今度は自分からキスをする。ナタルの口腔を探るように貪る。強いアルコール臭の中に、きりりとした香水の臭いがかすかに漂う。自分は今憧れの上官を陵辱しようとしている。興奮はなおも高まった。 「ん……」 服の上から乳房に触れるとピクリと反応する。そのまま手のひら全体で包み強く揉みあげる。心地よい弾力がかえり、自分の腕の中でナタルがかすかに喘ぐ。潤んだ瞳が見上げてくる。 「アーノルド……」 良心がズキリと痛む。しかし一度火のついた欲望には歯止めが利かず、トノムラはそのままナタルの上着のファスナーを降ろした。真面目なナタルらしい、飾り気の少ないシンプルなブラジャーが顔を覗かせる。酒のせいなのか、それとももっと別の理由でか肌はうっすらと桜色に染まり、かすかに震えて見えた。トノムラは恐る恐るその肌に舌を落とした。反応してナタルの身体がビクンと跳ねる。こらえ切れずに乱暴に下着を剥がし、その先端に吸い付いた。 「ああ……ん」 ナタルの方から擦り寄って来る。トノムラはそのままスカートの中に手を滑り込ませてショーツも下ろして行く。腕の中のナタルは、自ら腰を浮かせて手助けしてくる。その従順ぶりにトノムラは嫉妬した。 『少尉……ずるいよ、俺だって……』 バナディーヤにナタルの護衛でついて行った日のことを思い出す。少しだけ出し抜いた気分で嬉しかった。それも全て自分一人の思い込み……。いつから二人はこうだったのだろう。虚しい自問を心の中で繰り返す。 めちゃくちゃにしてしまいたい。腕の中のこの女性を。 トノムラはズボンから既に堅くいきり立ったものを取り出し、ナタルのスカートをたくしあげながらその場所に押し当てる。彼女のそこは十分な潤いを貯え、少し力を入れればすんなりと受け入れてくれそうなほどだった。自分は、彼女がこれほどまでに焦がれて濡らす本当の相手ではないのに……。後ろめたさに思わずナタルをうつぶせにさせる。その導きにすら従順に従う彼女の腰をつかみあげ、トノムラは一思いに突き入れた。 「ああっ、アーノルド」 彼女が自分を受け入れ包み込んでいる。突き動かされるようにトノムラはナタルの膣内を蹂躙して行く。叩き付けるたびに白い肌が歓びの声をあげ、結合部からとめどなく蜜が溢れ出す。 「ごめんなさい! 中尉! ごめんなさい!」 何度も内部をかき混ぜながら、トノムラは叫んでいた。かき混ぜるたびにナタルが絡み付き自分を奥へ奥へと誘う。吸い込まれるように夢中で打ち付けていたトノムラは、不意に息をつまらせて引き抜く。引き抜かれた先端から溢れ出た白い粘液がじわじわと目の前の白い尻を汚して行くのを、トノムラは呆然と見つめていた。 翌日のジャッキー・トノムラは朝から憂鬱だった。 ひとつ、慌てて逃げ帰る時にベルトを忘れて来た。 ふたつ、今日のシフトはそのナタルと一緒である。 みっつ、ついでにノイマンのおまけ付き。 いったいどんな顔で二人に挨拶をすればいいのか。いっそ今この瞬間に戦闘でもはじまれば何食わぬ顔でブリッジに飛び込めるのに。 重い足取りでブリッジに入るとそのままCICに向かう。きっとナタルは申し送りの最中で艦長席のあたりに陣取っていることだろう。ノイマンは考えるまでもなく操舵席にいるはずだ。一度この外界の明かりもささない自分の定位置で気持ちを落ち着けよう。そう思ってくぐった扉の先にいたナタルといきなり目が合い、トノムラは固まる。 「遅いぞ、トノムラ軍曹」 いつも通りのきびきびとしたナタルが目の前にいた。昨夜のこと、気付かれていない。思わずホッとするトノムラ。そのトノムラの目の前に、ナタルは小さな紙袋を突きつける。 「忘れ物だ」 心臓が止まるかと思う、とは良く言ったものだとトノムラは思った。真っ青な顔で脂汗を流すトノムラになおもナタルは無言で突き付けて行く。我にかえったトノムラは、ひったくるようにその紙袋を受け取り、中を確認する。間違いない。昨夜忘れた自分のベルトだった。 「な……」 言いかけたトノムラに向かってナタルは「シッ」と小さく息を吐きながらその愛らしい唇に人さし指を立てて当て、ここからは見えない操舵席へと目配せする。わけもわからず赤面するトノムラにナタルは小声で言う。 「からかって悪かったな。途中からちゃんと気付いてた」 見たこともない妖艶な微笑み。すぐに、何ごともなかったようにナタルはブリッジへと上がって行った。 しばらく呆然としていたトノムラが照れくさそうに笑う。あのナタルと秘密を共有している自分。今だけは、操舵士の上官を出し抜いたと考えるのも錯覚ではないだろうと思った。 |