焦燥



 ドックにいた若い整備士達が、遠くからでも一目でわかるその女性の剣幕にそそくさと通路を開けて行く。その人物─ナタル・バジルールは、普段はめったに足を踏み入れないMS格納庫の一角を目指していた。
「おい! ヤマト少尉!」
 ストライクのパイロットシートでまどろんでいたキラは、少し艶を含んだハスキーな女性の声に揺り動かされてすっかり目をさます。
「あ、ナタルさん……」
「『ナタルさん』じゃない。命令だ。今すぐ自室に戻れ。こんなところで身体が休まるわけがない」
 人なつこい笑顔をあっけらかんと向けるキラに、ナタルの叱責が飛ぶ。
「艦長やフラガ少佐は何も言わないかも知れんが私は許さんぞ。全体の指揮に関わる」
 キラは最初、この口やかましい女性がいささか苦手だった。四角四面で融通が効かない、厳しいだけの女性。しかしそれは裏を返せば決して嘘をつかないまっすぐな性格なのだとわかり、そのことに気付いてからは、むしろこの物言いが心地よいとさえ思えることもある。何よりキラが一番気に入っているのは、自分が彼女に特別な呼び方を許してもらえていることだった。
「ははは、ナタルさん、なんだかお母さんみたいだ」
「何とでも好きに言っていろ。今日こそはきちんとベットで寝てもらう」
 キラがナタルをファーストネームで呼ぶことを、ナタルはあまり咎めることがなかった。たまたま注意しそびれたのか、注意する気力もわかなかったのかは定かでないが、この艦の中では、艦長以外の誰もがそんな風に呼ぶことは許されていないだろう。キラを除いては。
「僕……部屋には戻りたくありません」
「フレイ・アルスターのせいか?」
 単刀直入に斬り付けられてキラはそのまま押し黙る。このところキラの部屋に毎日のようにフレイが押し掛けているのは周知の事実だった。男女間の色事などにはとんと興味も無さそうなこの副長を持ってしてそれを言わしめるほどなのだから、よほど目に余るのだろう。
「彼女のことは嫌いではないけど……少し、重いです」
 言っても理解してもらえるとは思わなかったが、誰かに言わずにはいられなかった。それが、そんな答えが帰ってくるとは誰が予想できただろう。
「ならば私の部屋に来い。とにかくここに寝泊まりすることは許可できん」
 ハッチに膝を掛けてこちらを覗き込んでいたナタルをびっくりしたように見つめる。ナタルは何の迷いもないまっすぐな眼でキラを見つめ返していた。
「私の部屋まではアルスターも押し掛けてくるまい。不服か?」
「でも……それじゃあ、ナタルさんは?」
 当然の疑問を投げかける。
「どこかの空室を使う。睡眠を取るだけなのだから別にどこだってかまわん」
 いかにも彼女らしい答えに、キラはムッとしたように反論する。
「それなら僕はここで寝ます。部屋の持ち主を追い出してまでベットでなんて寝たくない!」
「ではどうしろと言うんだ!」
「一緒に寝て下さい!!」

 勢いとはいえとんでもないことを言ったものだ。思わず顔を赤らめながらキラは「しまった」というような表情で口を手で覆う。しかし時既に遅し。言ってしまった言葉を取り消す術をキラは持ち合わせていなかった。
 気まずい沈黙を最初にやぶったのは、やはりナタルの方だった。
「それで、ベットで寝ることができるのか?」
 こともなげにそう言い放つと、ナタルは呆然としているキラの手を掴んでコックピットから引きづり出していた。
「わっ! ちょ……ナタルさん!?」
「いいから来い! お前はこの艦の貴重な戦力なのだ。こんなところで体調を崩されてはたまらん!」
 あくまで戦力としての扱いに不満を覚えながらも、一度言い出したことを今さら引っ込めることも出来ず渋々と後をついて行く。

 ナタルの部屋に着いて早々、キラは副長室に備え付けのシャワーを浴びていた。「ろくに風呂にも入っていないのだろう」とナタルに押し込められたからだ。なんでこんなことになったのか、ぶつぶつと自問をくり返しながらコックを閉め、シャツを着ながらシャワーを出るとナタルが既にアンダーシャツとショートパンツ姿で待っていた。
「ナタル……さん?」
「一緒に寝るのだろう? 早くしろ」
 あくまでも事務的な口調で命令され、キラは大人しくナタルが普段使っているのであろうベットに身体を滑り込ませる。一瞬香る女性らしい柔らかな芳香に少しだけ頬を赤らめながら、それを隠すように毛布を口元までずりあげてナタルを見上げる。ナタルはと言えば、何のためらいも見せずに今まさにキラに続いてベットに入ろうとしているところだった。
「ナタルさん……何でここまでするんですか……?」
“僕がストライクのパイロットだから?”
 喉まで出かかった疑問を飲み込む。ベットが少したわんで、すぐ横に質量を伴った熱が入り込んでくる。間近にナタルの息遣いを感じ、キラはどぎまぎした。
「“何で”? お前が望んだからだろう?」
「それはそうだけど……だからって……」
「お前が素直に自室に戻らんからだろう」
「それは……」
 そのまま黙り込んでしまう。そんなキラを、ナタルはまるで子供を寝かし付ける母親のような手付きであやす。
「深く考えることはない。早く寝ろ」
 言葉とは裏腹にひどく優しい手付きで背中をトントンと叩かれ、キラは何故だか泣きそうになった。ひじをついて半身を起こし、キラを見下ろしていたナタルがその震える表情に気付いたのかそっと抱き寄せる。
「今だけだ。今だけ、お前がただの少年に戻ることを許可する」
 包み込むようにキラの頭を胸に抱きかかえる。しかしたまらないのはキラの方だった。
「な、な、ナ、ナタルさん!?」
 着痩せするのか、普段の印象よりふくよかな胸が顔に押し当たる。下着をつけていないのかその感触は薄布1枚隔てただけのリアルなもので、顔を少し動かすだけでそのおうとつに合わせるように変型するのが良くわかる。
『そ、そうか……これから寝るから、下着つけてないんだ……』
 妙なところで納得してしまうどこか冷静な自分が可笑しくて、キラは少しだけ平静を取り戻す。何より、きっと自分を寝かし付けたらどこかへ行ってしまうのだろうと高を括っていたのに、ナタルが本気で一緒に寝るつもりだったのだとわかって嬉しかった。
 一方で、一人の男として扱われていないことに少々の不満を覚えた。まるで自分を子供扱いするナタルに対して、悪戯心に火がともる。
「ナタルさん、僕、もう16才ですよ? 子供じゃないです」
「え? ………!」
 言うなり、自分の顔に押し当てられていた柔らかな乳房に、布地越しに舌をはわせた。まったくそこまでの考えには及んでいなかったのだろう、ナタルは驚いてしなやかな首を仰け反らせる。
「ヤマト少尉っ! 何を……!!」
 一瞬のうちにナタルはキラに組み敷かれ、両手で乳房を揉みしだかれていた。キラの、思ったよりもゴツゴツとした“男”の手に弄ばれていいように形を変えて行く自分の乳房を眼前に、ナタルは頭の中が真っ白になる。
「乳首、勃ってきましたね」
 楽しそうに微笑んでシャツの上からそれを口に含む。固くなった突起が舌で転がされ、だ液を含んだ布が張り付いてくる感触にナタルは顔を真っ赤にする。
「少尉! 止めろ! あぅんっ!」
 オロオロとうろたえ、上ずった声をあげる。その狼狽ぶりがあまりに新鮮で、キラは少し虐めてしまいたい衝動にかられる。
「本当は最初からこうして欲しかったんじゃないですか? 普通言いませんよ、興味もない男に“一緒に寝よう”なんて」
 自分の下で羞恥に身体を震わせるナタルの耳元に息を吹き掛ける。キラのその言葉を聞いて、はじめてわかったようにナタルは愕然とした表情でキラを見つめた。
「私はっ、そんなつもりでは……!」
 まるでしかられた子犬のようにフルフルと震えるナタルを見下ろし、キラは余裕の笑顔を見せる。
「冗談です。ナタルさんがそんな人じゃないことくらいわかってますよ」
 その言葉に安心したのか、ナタルはすぐに取り繕おうと眉を釣り上げる。
「大人をからかうな! 冗談にもほどがある!」
「でも僕、ひとつ気付いちゃいました。ナタルさんってすごく可愛い人ですね」
 油断したナタルの口にキラのそれが重なる。突然のことに身体を硬直させるナタルをしり目に、キラはその唇を舌で割り開き侵入させて行く。口腔を貪られながら乳房を揉まれ、ほとんどパニック状態のナタルのショーツにキラの指先が触れると、はじめて思い出したように抵抗を始める。が、大人と子供とは言え女と男、ましてやナチュラルとコーディネイターである。抵抗空しく下着への侵入を許し、再びナタルはその身を固まらせる。つうっ、と秘裂をひと撫でされ、ぬるりとした感触に戸惑う。濡れている。このひと回り近くも年の離れた少年に弄ばれて。
 ショックで身体の力を抜くナタルを確認すると、キラはようやくその唇からナタルを解放する。
「やっぱり期待してました? ナタルさんのここ、そう言ってますよ」
 そのままキラの指がナタルの中へと沈んで行く。首筋への愛撫を受けながら、ナタルはビクッと肩をすくめる。
「違う、やめろっ……」
 弱々しく首を振る。しかしキラの愛撫は止まらない。
「ここ……何か引っ掛かる。ナタルさん、初めて……?」
 キラの問い掛けに、ナタルは答えず顔を真っ赤にして背ける。図星を刺されて相当悔しかったのか、ついにナタルは些細な抵抗すらも放棄したように身体の力を抜いた。
「ナタルさん、僕、ナタルさんとしたい……」
 シャツをめくられ、直接乳首を食わえながらキラが言う。
「アルスター二等兵の代わりか? ……好きにしろ」
 自棄になったように言い放つナタルを、キラは咎めるように見つめる。
「僕、ナタルさんのこと好きです」
 秘裂を丁寧に愛撫しながらすぐそばの小さな突起を指の腹で押す。たまらず痙攣するナタルを押さえ込むように乳房全体を口に含んで舐めまわす。
「あうぅっ、ヤマト……少尉…!」
 真っ赤な顔で唇を噛み締め声を堪える。まるで思春期の少女のような奥ゆかしい恥じらい方をするナタルに、キラの青い欲望はどんどん高まって行く。
「ナタルさんのおっぱい、美味しい」
 乳首をわざと音が出るようにチュッチュッと吸い、完全にショーツを脱がせて足を開かせながら、キラは自分の身体を割り込ませる。
「んっ、ふ…ぁ、やっ!」
 両膝をつまかれてそのまま押し広げられる。濡れそぼるそこがキラの眼前にあらわにされるのを、ナタルはどうにも出来ずに目を逸らす。ナタルが抵抗しないのを確認したように微笑んで、キラは既に固くなった自らをショートパンツから取り出し、ナタルの晒された部分にあてがう。自分に熱くて固い感触が押し当てられるのを感じたナタルが「う…」と呻いてぎゅっと目を閉じる。かまわずキラは、一気にナタルの中へと突き入れた。
「っ!!! ………………ぐぅっっ!!」
 体内で何かが弾けるような音が聞こえた気がしたかと思うと、焼けるように熱くなって歯を食いしばるナタル。その様子をキラは征服感でいっぱいになりながら見つめる。自分のものをやわやわと締め付けてくる感覚を味わうように、しばらく突き立てたままで動きをとめる。そして、少し落ち着いた呼吸を取り戻してきたナタルを確認すると、ゆっくりとした動作で動き始めた。
「う……、うふぅ……」
 破瓜のショックも覚めやらぬ内部をえぐられ、苦痛に顔をゆがめる。
「ごめんなさい、ナタルさん。すぐ、良くなるから……」
 慰めるように優しく頭を撫で、首筋にキスを落とす。何度か抽送をくり返すうちに鮮血混じりの愛液が溢れて来てその動きを助けてくれるようになる。安心してキラは少しずつ動きを大きくしていく。
「あぐ……、少尉っ」
 自分の膣内を貫通した肉の棒が初めて触れる肉壁を擦り上げて行く感覚に、ナタルの身体が次第に順応して行く。突き入れられるたび蜜が溢れ、セピアの窄みを伝ってシーツを濡らして行く。いつしか苦痛のうめきが快楽を薄く含んだ喘ぎに変わる。
「はぅんっ、ヤマト…少尉っ、い……はぁっ」
「ナタルさんっ、なか、気持ちいいよ…、んっ」
 普段は気丈な鬼副長が、自分の腕の中で少女のように震える姿に、キラの欲望はますます膨れた。まだぎこちない様子で必死にキラを受け入れるナタルの腰を掴んで引き寄せると、激しく腰を打ち付けて行く。
「んあっ! はあぁあっ!」
 未熟な性感を無理矢理引き出され、訳もわからず声をあげる。開通したばかりのそこはまだきつく、キラもそこを通過するたびに高まって行った。
「ああっ! ナタルさん! ナタルさんっ!」
「んんっ、あはぁっ! キラ! キラ!」
 二人の息が一層高まった瞬間、キラは欲望のすべてをナタルの中に吐き出していた。受け止めたナタルもまた、熱いたぎりが自分の中を侵して行く感覚にどこか遠い景色が見えた気がした。

 キラ・ヤマトがMIAと認定され、自分の思いを断ち切るようにキラの親友、サイ・アーガイルに遺品を整理させたあの日から、随分と自分は遠いところへ来てしまったものだと目の前で繰り広げられる戦闘を見つめながらナタルは思った。
「いやー、すごいねキミ」
 傍らでブルーコスモスの盟主、アズラエルが感嘆の声を漏らす。
「この程度の戦術、お褒め頂くほどでもありません」
 いささかうんざりしたようにあしらう。と、突如忘れもしない声が飛び込んでくる。
「ナタルさん!」
 接近する見慣れぬ機体。だがあの声は確かに……。
「……あれを鹵獲すればいいんですね」
 まっすぐとフリーダムの機体を見つめ、ナタルは静かにつぶやく。
「キラ……」
 そのつぶやきに気付いた者は誰もいない。





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